日韓関係の優先度低下を憂慮する韓国メディア

日韓関係の優先度低下を憂慮する韓国メディア

防衛白書から読み取る日本と韓国の関係2020

日韓関係の優先度低下を憂慮する韓国メディア

北朝鮮と中国の軍事動向を警戒 2020年版「防衛白書」を読み解くポイント(1)の続き。

 7月14日に2020年版『防衛白書』が発表されるにあたって、日韓関係がどのように位置づけられているかが注目された。

 昨年、2019年版防衛白書が発表された当時も、韓国メディアからは「韓国の優先度が下がっている」と憂慮する声が聞こえた。

 たとえば、安全保障、防衛分野で協力している国について記述している「第3章」の掲載順についてである。

 第3章では、日本と米国の協力関係について説明した後、その他の協力国について紹介している。

 2018年版までは、オーストラリア、韓国、インドなどの順番で2番目に登場していた。だが、2019年版では、オーストラリア、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)に続いて4番目に登場したため、「順位が下がっている」と声が挙がったのだ。

 それで2020年版はというと、今回も韓国は4番目であった。

「韓国との幅広い防衛協力」文言削除

 他に注目されたのは、韓国との防衛協力をどのように認識しているかである。

 2019年版防衛白書では、韓国政府が「日韓秘密軍事情報保護協定」(GSOMIA)の破棄を決めたことなどの実例を挙げ、「韓国側の否定的な対応などが、日韓の防衛協力・交流に影響を及ぼしている」と指摘していた。この記述に対しては当時、韓国から「韓国に関係悪化の責任を押しつけている」と反発が挙がっていた。

 この点、2020年版では「韓国側の否定的な対応」という表現が「日韓防衛当局間にある課題」と変わっており表現が和らいだ形だ。

 一方で2019年版では、北朝鮮の核問題など安全保障上の課題に対応するため、「韓国との間で幅広い分野での防衛協力を進めるとともに、連携の基盤の確立に努める方針である」と示していたが、2020年版では「幅広い分野での防衛協力推進」の一節が削除された。

 「日韓両国が直面している安全保障上の課題は(中略)広範かつ複雑なものとなってきている」と言及するにとどまっている。

残る日韓のわだかまり

 これに加えて、2019年版と同じく解決すべき「課題」として、(1)2018年10月の韓国主催国際観艦式における海自の自衛艦旗をめぐる韓国側の対応。(2)同年12月の韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射事案。(3)GSOMIAに関する対応を挙げている。韓国側にこれら懸案事項に「適切な対応」を求めていく方針は引き継がれた形だ。

 このことから、「日本から譲歩して韓国との防衛協力を無理に進める必要はない」という姿勢を改めて見せたと言える。

 「日韓・日米韓の連携は極めて重要であり、日韓防衛当局間の意思疎通を継続していく」という記述は残されているものの、日韓のわだかまりは大きい。
 

「竹島の領土問題」をめぐる対立

 竹島(韓国名 独島)をめぐる記述についても韓国から反発が起きている。

 韓国政府や慶尚北道は、白書における日本の「竹島領有権」を主張した記述に強く抗議して、即刻廃棄を求めた(韓国側の主張では「独島は慶尚北道の管轄」となる)。

 問題とされたのは、「わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在している」という1文である。

 ここでの「わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題」という文言は、2005年版白書で登場して以降16年連続で記載されており、毎年、韓国との対立を呼んでいるが解決のめどは立っていない。

もう1つの領土問題。不法占拠され続ける「北方領土」

 余談だが、同じく北方領土を「わが国固有の領土」であるとし、ロシア軍が「事実上、占拠」していると記したことについてロシアからも非難を受けている。

 ロシア側は「(北方領土は)第2次世界大戦の結果としてロシアの主権下にある」と主張しており、日本政府はかねてより北方領土の記述の仕方に苦慮しているのだ。

 たとえば、今年5月に出された2020年版『外交青書』(外務省)では、「北方領土はわが国が主権を有する島々」と記述した。前年の2019年版外交青書では、ロシアへの配慮から「北方四島は日本に帰属する」との表現を削ったところ、自民党内から批判が相次いだ結果このような表現に落ち着いた形だ。

 それでも歯舞群島と色丹島の事実上の2島返還にかじを切る中、「四島が日本に帰属する」との明記を避けるなどバランスを取ることに苦心している。

 このように竹島、北方領土、尖閣諸島と解決すべき問題が山積みのまま年月が過ぎている。

日本と韓国を隔てる歴史認識問題

 韓国メディア「聯合ニュース」は7月14日に「20年版防衛白書 韓国を冷遇」と題する記事を出し、「韓国への冷遇が目立った」と報じている。

 冷遇かどうかはともかく、確かに日韓関係の悪化が反映された書き方ではある。防衛白書を読む限りでは日韓関係の改善に向けて動き出す気配はない。

 防衛協力面だけでなく、外交面でも慰安婦問題や徴用工問題など問題は山積みであるし、日韓関係は当面回復する兆しが見えない。

 むしろ歴史認識をめぐる隔たりがここまで日韓関係を悪化させたという側面があり、防衛協力を進めたところで日韓関係がよくなるわけもない

 日本や韓国で現在の日韓関係を憂慮する声は多いが、その一方で「歴史認識問題を解決せずに妥協しても、再び日韓関係は破綻する」という慎重論も双方から聞かれる。

 日本政府が防衛白書で中国や北朝鮮の脅威を強調しながらも、日韓防衛協力を急がないのも同様の理由なのかもしれない。

 その場しのぎの関係改善ではなく、時間をかけて対話と交渉を進めていくほかないだろう。
 
 
防衛省『2020年版防衛白書
 
 

八島 有佑

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