トランプ前政権の政策を次々転換

トランプ前政権の政策を次々転換

オバマ政権時代に副大統領を務めたジョー・バイデン氏 出典 オバマ ホワイトハウス [Public domain], via Flickr

トランプ前政権の政策を次々転換

 米国のバイデン政権は4月29日で就任から100日の節目を迎えた。バイデン政権は内政・外政において、トランプ前政権の政策を次々転換させている。

 トランプ政権と異なって政治経験豊富な側近たちがバイデン政権の内政・外交を支えているという意見もあるが、現政権の外交スタッフはどのような対北朝鮮政策を検討しているのか。

 非核化協議という観点で参考になるのは米国の対イラン政策である。

イラン核合意を完全否定したトランプ前政権

 現在、バイデン政権は、「イラン核合意」の立て直しに取り組んでいる。イラン核合意とは、オバマ政権下で2015年にイランと6か国(米、英、仏、独、中、ロ)との間で締結された合意である。正式名称は「包括的共同行動計画」(JCPOA)。

 イランが濃縮ウランや遠心分離機を大幅に削減し研究開発への制約に応じ、その見返りとして国連安保理や米国、欧州連合(EU)が対イラン制裁を解除した。

 軍事的手段に訴えることなく、外交手段で核不拡散体制(NPT)を維持できた成功例として、オバマ政権の外交功績の1つとされている。だが、続くトランプ前大統領が核合意を完全否定した。

 核合意でイランの核兵器開発に課している制限は期限付きであり、弾道ミサイルの開発自体は阻止していないなどの問題があるとして「米国史上最悪の取引」と非難。2018年に一方的に合意を脱退し、対イラン制裁を強化したのである。

 この米国の態度転換に反発したイランが核開発の強化を開始したことで、核合意は事実上、破綻することとなった。

イラン・北朝鮮の「米国を信頼できない」という共通点

 このような米イラン対立の中で政権を引き継いだのがバイデン大統領。選挙中からイラン核合意の復帰を主張していたが、大統領就任後は「イランが再び合意を遵守すれば復帰する」と慎重な姿勢を示している。

 一方、イランの最高指導者アリ・ハメネイは、米国の約束は信頼できないとして、「米国が制裁を全面解除するまで核合意には復帰しない」と反発。

 4月からEUが仲介する形で米イラン間接協議が開始されたものの、米国とイランはともに「相手の行動が先である」と主張し、両国の主張は平行線をたどっている。

 「米国が信頼できないため先行措置を求める」という構図は米朝交渉と似ている。

かつてイラン核合意をけん引した政府幹部が対北交渉に従事

 ところで、バイデン政権の外交部門には、オバマ政権下でイラン核合意に関わった幹部が残っている。

 当時副大統領であったバイデン大統領をはじめ、大統領補佐官のジェイク・サリバン氏(2013年~14年大統領補佐官)、国務長官のアントニー・ブリンケン氏(2015年~17年国務副長官など)、国務副長官のウェンディ・シャーマン氏(2011年~15年国務次官)、中央情報局(CIA)長官のウィリアム・バーンズ氏(2011年~14年国務副長官)などである。

 このようにイラン核合意をけん引した主要メンバーが、外交担当として今後の対北朝鮮交渉に携わることになる。そのため、北朝鮮との非核化協議でも対イラン交渉と同様の合意や交渉形式が好まれる可能性がある。

イラン核合意のように部分的な非核化措置を求める可能性も

 4月30日にジェン・サキ大統領報道官は「調整された現実的なアプローチ」で対北交渉に臨むと発表した。

 米国は「朝鮮半島の非核化」を目標に据えているとしたが、解決プロセスとして「北朝鮮側の非核化に向けた実施項目に応じて米国が制裁を解除する」という段階的解決方式をとる可能性もある。

 サキ報道官が、トランプ前政権下の「グランドバーゲン(包括取引)」の達成を目的としないと明言したのだ。大統領補佐官であったジョン・ボルトン氏ら対北強硬派は「北朝鮮の完全な非核化達成時に完全な制裁解除をすべき」と訴えたが、この方式は取らないと宣言したのである。となれば、過去のイラン核合意でなされたように、北朝鮮の段階的な非核化措置に対して制裁緩和などの対応をとる可能性もある。これは北朝鮮が求めてきた方式でもある。

 バイデン大統領は、4月28日の演説で「イランと北朝鮮の核戦略は脅威」と両国をまとめて述べているが、今後の対イラン政策を見ること米朝交渉の進め方をうかがい知ることができるかもしれない。

八島 有佑

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