2002年から11年間トップ独走

2002年から11年間トップ独走

130万人近いとされる朝鮮人民軍(提供 コリアメディア)

 今年6月にオーストラリアの国際シンクタンク・経済平和研究所が、今年度版の「世界平和度指数」を発表した。各国の周辺情勢や軍事化の程度などを総合評価して、平和の度合いを数値化したもの。そこには国内総生産(GDP)に占める軍事費の割合についても記されていた。

 それによれば、北朝鮮の軍事費は対GDPの24%と、13.5%の2位レバノンの大きく引き離して堂々の世界第1位にランクされていた。

 聯合ニュースをはじめとする韓国マスコミがこの結果を大きく報じ、韓国内では注目された。が、北朝鮮の軍事予算の突出ぶりは、今に始まったことではない。たとえば、2016年に米国防省が発表した「2015年世界軍備支出武器移転報告書」によると、北朝鮮は2002年からの11年間でGDPの23.8%を軍事費に使い、この頃も2位をダブルスコアで引き離してトップを独走している状況だった。

北朝鮮の対GDP軍事支出は日中戦争の日本と同水準

 軍事国家、独裁国家と呼ばれる国々はどこも、国家財政の多くを軍事費に注ぎ込む。そのためGDPに占める割合はどうしても多くなる。

 かつての日本がそうだった。日中戦争が始まった1937年から1945年までの8年間に費やした軍事費は、当時のGDPの26.1%に相当するという試算がある。これは現在の北朝鮮とほぼ同水準。

 太平洋戦争が始まると、さらにパーセンテージは急上昇する。国家予算の大半を戦争のために費やし、不足する分は戦時国債を乱発して戦費をかき集めた。結果、戦争末期頃はGDPの約60%を軍事費が占めるようになっていた。

 しかし、戦争相手の米国はこの頃も世界随一の超大国。戦前は中進国程度の経済力しかない日本とは、国力で雲泥の差がある。GDPの60%を軍事費につぎ込んでも、しょせんは貧乏国。たかが知れている。米国とは分母が違いすぎた。実際に使った軍事費を米ドル換算の金額で比較してみると、開戦時の1941年でも米国の軍事予算は日本の約4倍。終戦時には40倍もの差があった。

鳥取県の経済規模でも100万人の兵力保有が可能!?

 北朝鮮にも同じことが言える。経済制裁で疲弊してGDPは年々下がり続け、現在は1兆8000億円程度と言われる。日本でもっとも人口が少ない鳥取県のGDPとほぼ同じ。鳥取県の経済規模で100万人を越える兵力を維持し、核兵器や弾道ミサイルが保有しているというも、驚きではあるのだが…。

 ここで主要諸国における軍事費の対GDP比を見てみる。ロシアと米国は3%を越えているが、その他の国々はおおよそ3%以内。NATO諸国は2%前後、38度線で北朝鮮軍と対峙する韓国は2.85%、軍拡が急速に進む中国でも1.75%となっている。

 また、戦争放棄した戦後の日本はさらに数字が低くなる。1976年に当時の三木内閣が「防衛費は国民総生産(GNP)比1%を超えない」と閣議決定して以来、GDP比1%の枠内に軍事費は抑えられてきた。北朝鮮の24%とは比べようもない数字。だが、日本のGDPは世界第3位なのだ。1%程度でも実際に使う軍事費は5兆円を越える。GDPから推定される北朝鮮の軍事費と比べたら、その10倍以上の金額になる。
 

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。

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