夢かなったと文在寅大統領

夢かなったと文在寅大統領

韓国国歌にも登場する朝鮮民族にとって特別な場所とされる白頭山(ペクトサン)

 文在寅大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が夫人と側近を同行して、2018年の10月20日に、白頭山(ペクトサン)の山頂に登った。

 北朝鮮にとって白頭山は、北朝鮮の金ファミリーの聖地だ。金日成将軍が率いる朝鮮人民革命軍が、抗日パルチザン闘争したとされる。

 父の金正日の「生家」が残されており、北朝鮮の若者が修学旅行で訪れる。

 首脳会談のため訪朝した文大統領に、正恩氏が突然、白頭山への登頂を提案して実現した。北朝鮮にルーツを持つ文氏は、この山に登ることを夢の1つにしていた。

 そのため、「ずっと実現しなかった夢がかなった。韓国の国民が(北朝鮮側から)観光できる時代がすぐに来ると信じている」(文氏)と感極まった様子で話した。

 この言葉を聞いた正恩氏は「これからは南側と、海外の同胞たちも来なければ」と応じ、記念撮影を行い、2人だけで親密に立ち話をした。

 この訪問で韓国では、「来年には、白頭山を北朝鮮側から登れるようになる」との期待感が強まっている。

 白頭山は、山頂を境に中国と北朝鮮がほぼ半分ずつ管理している。

 筆者も中国側から登ったことがあるが、岩が多く、山頂にある天池とよばれる天然湖には近寄りにくい。北朝鮮側は湖畔がなだらかに広がっており、景色もいい。山頂に行くケーブルカーもある。山頂部分に限れば北朝鮮側からのアクセスは、険しい山道をジープで登っていく中国側よりもよいようだ。

韓国の財閥グループが観光権

韓国の財閥グループが観光権

三池淵(サムジヨン)空港。三池淵は管弦楽団の名前などにも使われており知られている

韓国の財閥グループが観光権

 白頭山観光は、韓国の現代グループが計画したことがある。同グループは、金剛山観光を開発し、成功に導いた。

 鄭夢憲・前現代グループ会長が1998年6月北朝鮮と金剛山観光契約を締結。当初、観光客は海路で訪問したが、2003年には陸路で南北がつながれ、2005年累積観光客が100万人を突破した。こちらも筆者は行ったことがある。

 朝鮮半島の言い伝えが数多く残る伝説の山だが、景色や展望は今ひとつ。新たに開発された温泉はぬるく、お土産も地元産の蜂蜜程度。外国人にぐっと来る観光地ではなかった。

 現代グループは、2005年、北朝鮮と白頭山観光の実現で合意している。

 観光基地となる三池淵空港を補強するためアスファルト8000トンを北朝鮮に送ったこともある。

 その後、2007年に、盧武鉉大統領と金正日北朝鮮国防委員長が白頭山観光を実施するために白頭山ーソウル直航路を開設することで合意したこともある。

 ところが2008年7月、韓国人観光客が立ち入り禁止区域に迷い込んで射殺された事件のとばっちりを受けて、完全にストップしてしまった。

 そんな中で、文氏と正恩氏との間で平壌共同宣言が結ばれた。停止中の開城工業団地と金剛山観光の正常化が盛り込まれた。

「未開地の魅力」で熱い視線


北朝鮮 「金正恩同志、文在寅大統領と白頭山登頂 (김정은동지 문재인대통령과 함께 백두산에 오르시였다)」KCTV 2018/09/21 日本語字幕付き

 非核化が進み、国際社会の対北朝鮮の制裁が解除されれば、南北経済協力の一環として、金剛山観光が再開され、それにともなって白頭山への韓国人の観光も実現する可能性が出てきた。

 金剛山へは日本を含む外国人も訪問が許可されたので、白頭山も広く開放されるだろう。

 ただし、関係者によれば白頭山周辺の空港、道路や宿泊施設は、未整備な部分も多く、「白頭山観光の実施までには相当な時間がかかりそうだ」という。

 金剛山の場合、観光客1人あたり約80ドルが北朝鮮側に渡されていた。外貨収入として魅力があるものの、現在は、国連安全保障理事会の制裁が厳しく、非核化をめぐる米朝の協議が相当進展しない限り、再開は難しい。来年の秋夕(チュソク、朝鮮半島のお盆で、国民的な祝日)までに、白頭山観光まで実現する見通しは立っていない。

 白頭山は、朝鮮半島の最高峰で、標高2750メートル。日本海からの暖かい空気とシベリアの冷たい空気に加えて、偏西風がぶつかり、天気が悪いことが多く、冬も長い。

 観光シーズンは夏前後の5か月だけだ。そんな「未開の地」だけに、観光コースとしての整備が実現すれば、逆にレアな観光地として、爆発的な人気を集めるかもしれない。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
公式メールマガジン http://foomii.com/00123

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