オープンから1年ちょっとで全面閉鎖

オープンから1年ちょっとで全面閉鎖

非加工品の北朝鮮の乾物は中国人に人気がある(中朝商品展覧会より)

 中朝関係が劇的に改善し政治的には蜜月状態がすっかりと戻った感がある2018年10月末に密かに丹東の北朝鮮免税ショップが閉店、全面撤退していた。

 中朝国境の丹東南部、新区と呼ばれる新しい行政エリアの一角に2017年6月に北朝鮮の免税店ショップなどを含む「丹東国門湾辺民相互貿易区」がオープンして中国メディアでも報じられた。しかし、それからわずか1年半も持たずに閉鎖となった。

 このエリアの居住民は特例で1日8000元(約12万3000円)まで北朝鮮製品の売買が免税される優遇処置が受けられる。

 振り返ると2017年6月当時は、中朝関係が冷え込んでいた時期なので、商売状況的に厳しいことは想像できる。しかし、2018年3月、金正恩委員長が初の外遊先として北京を訪れ習近平主席との中朝首脳会談を開き、その後も短期間のうちにトップ会談を重ねることで中朝関係は一変して好転したので、2018年の春以降は、さぞ盛り上がっていたと思われるが、あっさりと閉鎖されてしまった。

新鴨緑江大橋を中心とした丹東新区計画

新鴨緑江大橋を中心とした丹東新区計画

丹東国門湾辺民相互貿易区への投資し呼びかける展示ブース(2015年撮影)

 丹東新区国門湾エリアは、丹東駅から南へ約10キロメートル、バスで30分ほど離れた場所にある。ここへ丹東市の行政機関を移転し繁華街と分離させることで持続的な都市発展をさせるために計画されたエリアだ。大型展示場やスポーツ施設などを建て、イベントなども行われている。その目玉となるのが、新鴨緑江大橋だ。

 新鴨緑江大橋は、すでに完成しているが、中朝関係の悪化で開通が無期限延期で野ざらしとなっている新橋だ。

 丹東新区は、この新しい橋を中心に物流や人の流れを生み出し、丹東市の新たな発展の起爆剤となるべく計画されたものだった。

 その当初の計画は、中朝関係悪化と新鴨緑江大橋の無期限開通延期で大きく頓挫し、マンション価格は暴落し、ほぼ完成したマンション群はゴーストタウン化(中国語で鬼城)していた。ところが、2018年3月以降、地価(正確にはマンションの平米価格)は嘘のようにV字回復、再び新区に活気が戻ってきたと報じられていたので、ますます2018年10月末に北朝鮮の免税ショッツプが閉鎖した理由が分からないのだ。

北朝鮮のマーケティング不足?

北朝鮮のマーケティング不足?

丹東国門湾辺民相互貿易区オープンを伝える中国メディア 出典 『大遼網

北朝鮮のマーケティング不足?

 丹東の旅行会社へ話を聞くと、北朝鮮側が中国人のニーズをまったく理解していなかった「マーケティング不足」が原因ではないかという声が聞こえてくる。

 「朝鮮の免税店は、お客さんへ大型絵画や陶磁器などの置物、高級な調度品を勧めてきていました。いずれも3000元(約4万6000円)を超えるような高級品ばかりでした。いくら多少余裕があるような中国人でも朝鮮の絵画や置物をその値段で買いたいと思う人は皆無でしょうね」(丹東の旅行会社ガイド)

中国人が買いたい北朝鮮産品

中国人が買いたい北朝鮮産品

芸術性が高いことで知られる北朝鮮絵画も中国人の購買欲には刺さらない?(中朝商品展覧会より)

 では、丹東を訪れる中国人客は北朝鮮のどのようなものを求めているのか。

 「中国は、急速に発展した結果、加工食品など口に入れる食品などに体によくない甘味料や添加物が入っていることを嫌がる人が増えてきました。そのため、生活に余裕が出てきた人たちは、丸ごとの果物や加工されていない天然食材などを添加物が少ないものを選ぶようになっています。朝鮮は発展が遅れた分、汚染されたものが少ないと考える中国人が多くいて、干したキノコや人参、ハチミツ、自生する生薬にする植物のような自然食材やオーガニック化粧品などを買いたがる人が一般的です。工業製品や美術品には、ほとんど関心がありません」(同上)
 
 つまり、北朝鮮は、より利益が高い高級絵画や調度品を全面に押し出したのだろうが、中国人のニーズにまったく合っていないミスマッチが起こっていたようだ。

 なお、免税ショップでは、手頃に買える大同江ビールや、朝鮮焼酎、松茸酒のようなローカル酒よりやや高い酒類、タバコなども売られていたようだが、誰も気づかないような目立たない場所に置かれていたとのこと。

 悪化していた中朝関係が改善し、丹東新区に活気が戻ってきたタイミングでの北朝鮮免税ショップの全面閉鎖、撤退は、中国人が確実に買いたがっている北朝鮮産品はあるものの、北朝鮮側がそれをしっかりと把握していなかったマーケティングミスが影響していそうだ。

  • 丹東国門湾辺民相互貿易区

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