新年の辞の役割を担った中央委員会第7期第5回全員会議報告

新年の辞の役割を担った中央委員会第7期第5回全員会議報告

 昨年12月28日から31日までの4日間にわたって党中央委員会第7期第5回全員会議が開催された。

 党中央委員会総会が連日開催されたのは、1990年1月5日から5日間にわたって開催された第6期第17回全員会議(金日成政権)以来、約30年ぶりとなる。

 今回の全員会議の議題は4つあり、1「対内、対外情勢下での闘争方向」、2「組織(人事)」、3「党中央委員会スローガン集を修正、補充」、4「朝鮮労働党創建75周年」である。

 このうち、『労働新聞』(1月1日)は、金正恩委員長が報告した議題1、2を詳細に伝えている。

 その一方で、今年は施政方針演説である「新年の辞」は発表されなかった。金日成政権以来、続いていた新年の辞(金正日政権では「新年共同社説」)が発表されなかったのは1987年以来33年ぶりとなる。

 ただ、党中央委員会第7期第5回全員会議に関する発表が、新年の辞の代わりを担ったのは間違いない。1986年12月29日に最高人民会議第8期第1回会議が開催された際、金日成主席は翌日の30日に施政演説を行い新年の辞の代わりとなったという事例もある。

 今回、施政方針の発表形式を変更したのは国内外の注目を集め、その主張をより強くアピールする狙いがあったとも考えられる。

 では、詳報があった議題1と2の内容を分析したい。

北朝鮮の2020年対外方針での言及は米国のみ

 まず、議題1「対内、対外情勢下での闘争方向」の国内外情勢をめぐる方針であるが、その内容は主に対外関係と国内経済に分けることができる。

 最初に対外関係で言及があったのは米国のみである。現在の米国の対北姿勢について、対話と言いつつも、「朝鮮を完全に窒息させ、圧殺するため」の謀略をめぐらしていると指摘した。

 加えて、米国が米韓合同軍事演習などを実施するなどして米朝間の公約に背いている以上、北朝鮮側も公約を守る必要はないとして、ICBM発射実験の再開を示唆したほか、「新たな戦略兵器」の準備があると警告している。

 しかし、その一方、北朝鮮は、2019年末を米朝交渉の期限としていたものの交渉を打ち切るといった姿勢は見せなかった。「抑止力強化の幅と深度は米国の今後の対朝鮮立場によって調整」するとして、対話継続の余地を残したのである。

 米朝交渉自体がこう着状態にあるとは言え、米朝両首脳の個人的な関係はいまだ良好であることから、北朝鮮側からあえて対話の道をシャットダウンすることは得策じゃないと考えている様子である。

 実際、米朝対話の停滞の責任は米国にあるとしながらも、トランプ大統領に対する名指し批判はこれまで同様一切行わなかった。

経済分野を「正面突破戦」の基本戦線と位置付け

 ただし、北朝鮮としても米国がすぐに行動を取るとは考えてはいない。

 「朝米間のこう着状態は不可避に長期性を帯びる」という見通しを示した上で、「今後も敵対勢力の制裁の中で生きていかなければならない」という認識を示した。さらに、制裁に打ち勝つための「正面突破戦」の基本戦線は経済分野にあると位置付けた上で、制裁に打ち勝つためには「自力更生」が必要であるとともに、経済活動における「国家の統一的指導と管理」の強化を強調した。

 2019年の活動について、国連制裁という制約がある中で三池淵市再開発や「陽徳温泉文化休養地」の建設といった成果があったことを伝えた。

 一方、「経済建設10大展望目標」(1980年10月の第6回党大会などで提唱された鉄鋼、非鉄金など10項目における目標)について触れたものの、今年が最終年度に設定されている「国家経済発展5か年戦略」について言及がなかった。このことから、昨年の経済分野における成果では不十分であったという認識があるのかもしれない。

 その他、注目すべきは、金正恩委員長が、「かつての過渡的かつ臨時的な事業方式を踏襲する必要がない」とし、現在の社会主義商業を見直すことに言及したことである。これは、現在、国内で浸透した市場経済などの資本主義的経済システムを見直すことを示唆したものと考えられる。

大幅な幹部人事を断行で複数の党幹部が交代か?金与正氏がキーパーソン

 議題2の組織人事では、党中央委員会政治局委員3人、党政治局候補委員6人、党副委員長4人などが補選、任命されるなど、党幹部の交代が相次いだ。

 解任人事は公表されなかったが、会議後に金正恩委員長が党中央指導機関構成員と記念撮影した写真に、李洙ヨン氏(リ・スヨン、党副委員長)、朴光浩氏(パク・グァンホ、党副委員長)、太鐘守氏(テ・ジョンス、党副委員長)、李容浩氏(リ・ヨンホ、外務大臣)ら幹部の姿が確認されなかったことから、今回の会議で解任された可能性がある。米朝交渉に携わった者も含まれている。

 特に党の国際担当であり、2018年6月の米朝会談にも出席した李洙ヨン氏が解任されたのであれば、その後任はどうなるのだろうか。そこで気になるのは、今回、党中央委員会政治局委員候補に補選された金衡俊氏である。金衡俊氏は、2000年より駐レバノン大使や駐カタール大使などを歴任し、2005年には外務次官に就任、2014年からは駐ロシア大使を務めている。その経歴から、李洙ヨン氏の後任として党の国際担当を務めることになった可能性がある。

 今回の人事でさらに注目すべきは、金正恩委員長の実妹である金与正氏が党中央委員会第1副部長に任命されたことである。党宣伝扇動部第1副部長であったはずの金与正氏が再び同じ「党第1副部長」のポストに就任したというのはどういうことなのか。第1に、2019年のいずれかの時点で党第1副部長を解任されていたところ、今回、再び党宣伝扇動部の第1副部長に就任した可能性が考えられる。第2に、党宣伝扇動部より上位の党組織指導部など他部署の第1副部長に就任した可能性もある。もし党組織指導部に配置されたのであれば、今後金与正氏の役割はさらに大きくなることになる。

 この正解は北朝鮮メディアの報道を待たなければならないが、米朝交渉や南北対話に携わってきた金与正氏が今後もキーパーソンになるのは間違いない。

 今回の大幅な幹部人事は、議題1の対米方針、国内経済方針に基づいて政策を進めるため、そして、内部の引き締めを図る狙いがあったとみられる。

 北朝鮮が今年どのような外交を展開し、国内経済の改革を行うのか注目したい。
 

八島 有佑

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