金正恩総書記、南北・米朝対話に言及

金正恩総書記、南北・米朝対話に言及

最高人民会議で演説する金正恩総書記(提供 コリアメディア)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、9月29日に行われた第14期第5回最高人民会議(国会に相当)での施政演説の中で、「米国と南朝鮮(韓国)が度を越す憂慮すべき武力増強や同盟軍事活動を繰り広げている」などと最近の米韓の動向を批判的に論じた。

 その上で、韓国に対しては、条件付きではあるもの対話に意欲を示したが、米国には改めて「対朝鮮敵視政策」撤回を求めるなど非難に終始しており、米朝交渉の展望は明かさなかった。

 金正恩総書記は、今年6月にも米国との「対話と対決」の両方に備えると表明していたが、その後、自らは直接的な言及は行ってこなかった。2019年2月のハノイ会談以降こう着していた朝鮮半島情勢が重大な局面に入っている。

条件付きで韓国との対話に意欲

 金正恩総書記は韓国に対し、敵視政策撤回という条件を前提にしつつも対話や和解に意欲を示す発言を行なった。

 まず、韓国側が「北朝鮮の挑発を抑止しなければならない」と訴えているのは被害妄想であると断じ、韓国側が敵対行動をとらなければ、北朝鮮側には「挑発する目的もなければ、危害を加える考えもない」と主張した。

 また、韓国が求めている朝鮮戦争の終戦宣言のためには、「相手に対する尊重が保障され、敵視政策が撤回される」ことが課題と指摘。「現在の北南関係は和解と協力の道に進むか、それとも対決に至るかの別れ道にある」とし、今後の南北関係の進展は「南朝鮮当局の態度如何」であると訴えた。 

 金正恩総書記も、朝鮮半島情勢にとって今が重要局面であることを暗に認めているのである。

 その上で、金正恩総書記は、「北南関係回復と朝鮮半島の恒久的平和を望む民族の期待と念願を実現するための努力の一環」として、「一旦は10月初めから断絶していた通信連絡線を再び復旧する」という考えを明らかにし、対話に前向きな姿勢を見せた。

 南北通信連絡線は7月27日に約1年ぶりに復旧されたが、その後、8月には南北軍事演習に対する反発の中で断絶していた。もちろん韓国が敵対行動をとれば北朝鮮は連絡線を再び閉じるとみられるが、それでも連絡線回復は南北対話にとって大きな一歩である。

米国に敵視政策撤回を迫る

 一方で、金正恩総書記は米国に対して批判的に論じており、対話の展望も明かしていない。

 バイデン政権が今年1月に誕生してからの8か月間を分析し、「軍事的威嚇と敵視政策は少しも変化がなく、むしろ狡猾になっている」と非難した。さらに、米国の対話の申し出を「敵視政策を隠すための方便にすぎない」として、「歴代の米国政府が追求してきた敵視政策の延長にすぎない」と不信感をあらわにしている。

 北朝鮮側はかねてより「米国の対朝鮮敵視政策が撤回されるまで対話の席にはつかない」と主張しているが、いまだジョー・バイデン大統領が進める「新しいアプローチ」方式に信用を置いていない様子だ。

 この金正恩総書記の発言を受け、米国務省報道官は「北朝鮮への敵意は一切なく、対話の門戸は開かれている」と反論したが、すぐに北朝鮮が方針を転換することはないとみられる。
 

南北対話目指す文在寅政権に追い風

 米国とはこのまま距離をとりつつも、南北対話の可能性に言及した金正恩総書記。米政権側も「南北対話を尊重する」と表明していることから、まずは南北対話に注力し、その中で米朝対話の可能性を模索していくものと考えられる。

 これまでも南北間で親書のやりとりが行われてきたことは報じられているが、南北通信連絡線が回復することは対話にとって大きな前進である。

 今回、金正恩総書記が対話を呼びかけるメッセージを送ったことは、一貫して南北関係改善を目指してきた文在寅(ムン・ジェイン)政権にとっても追い風となるだろう。韓国政府は今年7月に自由な対話を可能にするためのテレビ会議システムの構築にも言及しており、文在寅政権は、あらゆるアプローチで北朝鮮との対話に取り組み、南北首脳会談を目指すものと考えられる。

八島 有佑
@yashiima

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA