共和国元帥授与10年

共和国元帥授与10年

7月17日で共和国元帥が授与されてから10年となった金正恩総書記(提供 コリアメディア)

 最近、ウクライナが北朝鮮との断交を発表するなど報じられたが、下半期に入った北朝鮮情勢を見てみよう。

 今、北朝鮮からの海外派遣労働者問題が再び注目されている。

 2022年7月17日付の北朝鮮の党機関紙である労働新聞は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記を指す「党中央」の決定と指示を無条件で徹底的に貫徹することを党員らに求めた。

 金正恩朝鮮労働党総書記が、2012年に「共和国元帥」の称号を授与されてから同日で10年になると指摘し、「(この10年は)尊厳と国力が最上の境地に達し、人民の夢と理想が花開いた輝ける年代だ」と統治を称賛した。

 かつて父親の故金正日(キム・ジョンイル)総書記は、「金正恩同志がいて私たちの革命、私たちの社会主義はびくともせず、私たち祖国の未来は果てしなく明るく蒼蒼としています」と教示していた。

 北朝鮮の称号は、故金日成(キム・イルソン)主席と没後の故金正日総書記が受けた「大元帥」が最上とされ、共和国元帥はそれに次ぐとされる。

労働新聞で昨年10月以来の日本批判

 翌7月18日付の労働新聞は、「日本が大東亜共栄圏を作るという妄想を捨てておらず『再侵略の刃を露骨に研いでいる』」と批判する記事を掲載した。

 北朝鮮メディアは、国営朝鮮中央通信などが頻繁に日本批判を展開しているが、最も権威が高いとされる労働新聞が、日本の政策を取り上げた記事を掲載するのは、昨年10月以来とみられる。

 記事では、1927年に当時の田中義一首相が、昭和天皇に極秘具申した内容として海外で流布され、日本では偽書との見方が定着している「田中上奏文」を取り上げ、その内容が、後に大東亜共栄圏構想に拡大したと主張した。

 加えて、「『征韓論』と『田中上奏文』、それに基づいた『大東亜共栄権』は、領土膨張に狂奔した日帝の愚かな妄想がどのような状況に至ったのかを如実に暴露している。そのはかない野望のため、日本は敗亡の恥と敵国の汚名を背負い、今後もそれを永遠に晴らすことができなくなった」と、日本批判を繰り返している。

 この時期に労働新聞が日本批判をすることの意図は何か。

 北朝鮮は、米国の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域での影響力増大を危惧し、それに追従する日本をけん制しているのではないだろうかと分析する。

北朝鮮が国家承認した2つの親ロ派“共和国”

 さらに、海外の北朝鮮の動きで注目すべきものが18日同日にあった。

 北朝鮮に駐在するロシアのマツェゴラ大使は、18日付のロシアの新聞「イズベスチヤ」とのインタビューで、「北朝鮮は国際的な舞台で常に良心に従い、自分が正しいと信じる方法で行動している」と述べた。

 北朝鮮が一方的に国家承認したウクライナ東部の親ロシア派の支配地域を巡り、インフラなどの建設のために親ロシア派が北朝鮮からの労働者を受け入れる可能性に言及し、北朝鮮の決定を評価したのである。

 その上で、「技術力が高く、勤勉で、厳しい条件下でも率先して働く北朝鮮の労働者は、破壊されたインフラや施設の再建に向けて大きな力になるだろう」と述べ、インフラなどの建設のために親ロシア派の指導者が、北朝鮮からの労働者を受け入れる可能性に言及した。

 大使は、「北朝鮮のいくつもの企業は、ソ連の技術協力で建設されており、その設備は、ドネツク州スラビャンスクやクラマトルスクの重機械工場などドネツク地域で現在でも製造されている」と指摘。

 最後に、「北朝鮮側は、こうした工場で生産される部品や設備を自国工場の修繕や更新の際に使うことに『強い関心』を持っており、北朝鮮と2つの“共和国”の間には交易対象になる多くの商品がある」と強調もした。

国連制裁に違反して労働者を海外へ再派遣か?

 海外で働く北朝鮮の労働者を巡っては、国連安全保障理事会の制裁決議で、2019年12月までにすべての国連加盟国に対して本国に送還することを求めている。

 今回のように、これに違反する形で労働者が新たに派遣されれば、北朝鮮の外貨の獲得につながり、核・ミサイル開発の資金源となる恐れもある。

 北朝鮮は、いまだコロナ禍を理由に人の動きは制限されているようであるが、実は、海外派遣労働者は、北朝鮮では国内の統制とは関係ない。そのため、この問題が再注目されるのだ。

宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!-グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)。

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