過去20年間で最低水準の貿易額

過去20年間で最低水準の貿易額

中朝貿易総額の年別推移(中国海関総署の公表資料より筆者作成)

過去20年間で最低水準の貿易額

 中国海関総署は今年1月18日、2020年の北朝鮮との貿易総額が前年(2019年)比80.7%減の5億3906万ドル(約576億円)であったと発表した(記事中の円価格は、該当期間ごとの為替相場で算出)。

 北朝鮮の対中輸入は前年比80.9%減の約4億9106万ドル(約524億円)、対中輸出は同77.7%減の4800万ドル(約51億円)と大きく減少している。

 昨年1月以降、北朝鮮は新型コロナウイルス対策のため国境を封鎖しており、過去20年間で最低水準を記録した。

 2000年とほぼ同水準であるが、このころは日本や韓国とも貿易を行なっていて対中貿易の割合が低かったことから状況は異なる。

 現在の北朝鮮は、貿易全体の90%以上を中国に依存しており、中朝貿易が物流の安定や外貨獲得の要となっているからだ。

 金正恩総書記は、今年1月の党大会で「経済目標がほぼ未達」と表明したが、中朝貿易の停滞が経済状況に大きく影響を与えている。

 ※海関は税関の意味。

中朝間で物流がほぼ途絶えた10月以降

中朝間で物流がほぼ途絶えた10月以降

中朝貿易総額の月別推移(中国海関総署の公表資料より筆者作成)

中朝間で物流がほぼ途絶えた10月以降

 1月は国境封鎖(22日)までは例年通り貿易が行われていたが、国境封鎖後は一気に減少。

 それでも段階的に貿易を回復させていったが、6月の9680万ドル(約104億円)を最後に再び減少に転じている。

 特に10月から12月までは1000万ドルを割っており、後述する電力以外はほぼ輸出がなかった状況である。

 この期間は、第8回党大会に向けて住民総動員態勢で経済活動などに取り組む「80日戦闘」(10月12日~12月30日)と重なっている。

 物流が途絶える中、非常に厳しい環境下での経済活動であったことがうかがわれる。

時計類の輸出85%減。対中輸出1位は電力

 輸出品目を分析すると、国連制裁強化以降、対中輸出の主要品目となっていた時計類や人毛かつらの項目が大きく減少している。

 2019年の対中輸出額1位であった時計類は、製造に必要な部品を輸入できなかったこともあり前年比85%減となった

 全体的に輸出が減少する中で輸出品目1位となったのは電力である。電力難と言われる北朝鮮なので意外に思えるかもしれない。

 電力の2020年対中輸出は前年比4%増で、10月から12月までの3か月間は電力以外の輸出がほぼなかった状況にある。

 ただ、この数字をどのように扱うべきか判断が難しい。

 この電力は、中朝国境の鴨緑江にある中朝共同運営の水力発電所で生産された電力が計上されている可能性がある。その場合は交易として単純に他の品目と比較することはできない。

必要な資材を輸入できず大打撃の製造業

必要な資材を輸入できず大打撃の製造業

2019年6月20日、習近平国家主席が訪朝し金正恩委員長(当時)と会談(提供 コリアメディア)

 輸出品目については、2019年に輸入品目上位であったプラスチックや合成繊維などの資材が大幅に減少した。これらは製造業に必要不可欠であることから、北朝鮮の製造業に打撃を与えたものと考えられる。

 他方、輸入に頼っている食用油や小麦粉、医療用品などが相対的に輸入品目の中で上位にきている。

 ただ、2020年の輸入額1位となった食用油ですら前年比40%減で、全般的に輸入量は大幅に減少しており、北朝鮮国内での需給バランスが大きく崩れている可能性がある

 なお、コメやトウモロコシなど穀物の輸入は前年比99%減となったが、これらは自国生産が可能であるため影響は少なかったと考えられる。穀物類の市場価格の混乱は確認されていない。

新駐中国大使に経済専門家を任命

 このように2020年は中国から必要な物資や資材が輸入できなかったことで、北朝鮮経済に大きな影響を与えたと考えられる。

 それでも国境封鎖を断行しているのは、自国の医療体制や防疫体制を考えてのものなのだろう。

 とはいえ、新型コロナの収束が見通せない中で、現在の国境管理体制を続けていくのが困難であることもまた事実である。北朝鮮は「自力更生」をスローガンに経済建設を進めているが、すべてを短期間で自給自足することはどこの国でも難しいからである。

 そのため、部分的に物流制限を緩和していく可能性がある。

 実は、新しく駐中国大使に李竜男(リ・リョンナム)元副総理が任命されたことが2月19日に発表されている。

 李大使は歴代駐中国大使と比較すると外交経験は豊富ではない。一方で、貿易部門に長年携わり、対外経済相や貿易相を歴任するなど経済の専門家と評価されている

 経済専門家が起用されるのは異例であり、中国との経済協力を強化するための動きとみられる。

 北朝鮮が推進する経済建設においては、今後も中国との貿易や経済協力が鍵となると考えられ、国境管理体制との間でどのようにバランスをとるのか注目したい。

八島 有佑

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