新規感染者が過去最多を更新

新規感染者が過去最多を更新

感染拡大が止まらない韓国

 日本の新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きを見せているのとは対照的に、韓国のコロナ感染には歯止めがかからない。

 11月17日の新規感染者数は、3292人で1か月半ぶりに過去最多を更新し、その後も3000人前後で推移している

 韓国は当初出遅れていたワクチン接種を急ピッチで進め、接種完了者が国民の7割を超える高水準になったことで、11月1日から行動制限を緩めウィズコロナに移行した。その影響もあってか11月の新規感染者数は、高止まり状態で、重症患者も増え、医療現場が逼迫(ひっぱく)している。

 国内からは「制限緩和が時期尚早だったのではないか?」との声も上がっている。

韓国の新聞は「マジノ線を越えた」と表現

 この状況について、韓国のいくつかの報道機関は「マジノ線を越えた」という表現で伝えている。たとえば、朝鮮日報は11月18日付記事で、「2日間連続で新型コロナウイルス新規感染者が1日3000人を越えた中、重症者も522人で、防疫当局が一種のマジノ線と定めていた500人を超えた」と伝えた。

 マジノ線とは、第2次世界大戦の前にフランスがドイツとの国境沿いに築いた要塞線の名前だ。韓国語では、しばしば「最終防衛ライン」「踏み越えてはならない最後の一線」という意味で使われる。

 左派寄りのハンギョレ新聞は、10月の日本の総選挙前に自民党が「防衛費の増額」を公約に入れたことについて、「これまで心理的マジノ線として維持してきた防衛費のGDP比1%枠と決別する」と書いている。これは韓国語だけの独特の用法である。

第1次大戦後に築かれたマジノ線は欧州版万里の長城

第1次大戦後に築かれたマジノ線は欧州版万里の長城

マジノ線・シェーネンブール要塞 出典 John C. Watkins V [Public domain], via Wikimedia Commons

 フランスは第1次世界大戦でドイツを相手に戦い、最終的にフランスを含む連合国が勝利したが、戦闘の過程で甚大な被害を被った。

 戦後、将来再びドイツが侵入してきたときに備え、ドイツとの国境沿いに切れ目のない要塞線を作ることを決め、長い年月と巨額の国家予算をかけて1936年に竣工した。これを「欧州版万里の長城」と呼ぶ人もいる。

 ところが、ドイツにヒトラー政権が生まれ、いざ第2次世界大戦が勃発すると、ドイツはまずベネルクス3国を攻略して、マジノ線のない仏ベルギー国境からフランスに攻め込み、あっという間にフランスを占領した。

 フランスは「マジノ線は鉄壁である」という過度の自信からきた油断と、マジノ線に張り付けた大部隊を他の戦線に回す柔軟性の欠如から、ナチスによって再び国土を蹂躙(じゅうりん)される憂き目を見た

マジノ線=最終防衛ラインは不適切な解釈

 マジノ線は仏独国境に設置されたものであり、最終防衛ラインでは決してない。

 朝鮮戦争初期に、韓国軍と国連軍は北朝鮮軍によって釜山を囲む円形の狭い地域に追い詰められた。まさにこれが最終防衛ラインであって、38度線(南北朝鮮の境界)を最終防衛ラインと呼ぶのがおかしいのと同様である。

 また、マジノ線は莫大な投資をして完成したのに、実戦ではほとんど役立たなかったことから、しばしば「無用の長物」の代名詞として引き合いに出される。ここからも韓国語の用法が誤用であることがわかる。

K防疫の広報に忙しくワクチン調達に出遅れる

 話を新型コロナ感染症に戻そう。韓国は感染拡大の初期、積極的なPCR検査の実施によって封じ込めに成功した。それをK防疫の成果として国際社会に喧伝した。

 しかし、K防疫に対する過信からワクチンの手配に後れを取った。焦った韓国は、2回目の接種のことを考えずに持てるワクチンをすべて1回目に回したため、多くの国民が、1回目が終わったのに2回目が打てない状態に置かれた。いわゆる「ワクチン干ばつ」に陥ったのである。

 そのため、韓国政府は苦肉の策として、推奨されている3~4週間の接種間隔を延ばして6週間間隔としたり、効果や安全性が確認されていない交差接種(1回目と2回目に異なるワクチンを接種すること)をせざるを得なくなった。

本当の意味でのマジノ線はK防疫?

本当の意味でのマジノ線はK防疫?

PCR検査万能主義を中心に据え世界へ喧伝していたK防疫とは何だったのか?

 現在、韓国の接種完了者は全人口の78.69%(11月21日更新Our World in Data)を超え、日本を上回る接種率を達成している。にもかかわらず韓国の感染が収まらないのは、ワクチン接種が完了したのに感染する、いわゆるブレイクスルー感染が多いからだそうだ。

 接種間隔を守らなかったり交差接種を行ったりした、行き当たりばったりの運用もその原因の1つと推測されている。

 このように見てくると、韓国の新型コロナ感染症事態における本来の意味のマジノ線は、実はK防疫そのものなのではないか

 PCR検査に多くの資金とエネルギーを注ぎ込んだにもかかわらず、結局は、その後の感染拡大を防げず、医療崩壊の危機を招いてしまったのだから。

犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談

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