核実験とICBM発射実験の再開を示唆

核実験とICBM発射実験の再開を示唆

2022年1月19日、金正恩総書記が政治局会議に出席(提供 コリアメディア)

 北朝鮮は1月19日、朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議において、「今まで暫定的に中止していたすべての活動を再稼動させる」との方針を示した。党機関紙・労働新聞などが1月20日に伝えた。

 北朝鮮では、2018年4月から中断していた核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を再開することを示唆するものである。

 北朝鮮側の発表によると、同会議で、「現在の朝鮮半島周辺の情勢と一連の国際問題に対する分析報告を聴取し、今後の対米対応方向を討議し」とあり、核実験やICBM発射実験の再開という結論に至ったようだ。

 今後、北朝鮮が「自衛力強化」の名の下に、核実験やICBM発射などを行えば、朝鮮半島情勢が一気に緊迫化する可能性がある

2018年4月以降、核実験やICBM発射実験を停止

 北朝鮮はこの約4年間、「モラトリアム」(一時猶予)として、核実験およびICBM発射実験を中止してきた。

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2018年4月20日、両実験の中止と、咸鏡北道吉州郡豊渓里にある核実験場を放棄することを発表したことが始まりである。

 同年6月12日の米朝シンガポール会談でも、金正恩総書記は、ドナルド・トランプ前大統領と実験中止を改めて約束していた。

 だが、19年2月の米朝ハノイ会談が物別れに終わり、米朝交渉が停滞。

 同年末の朝鮮労働党中央委員会第7期第5次総会において、核実験とICBMの試験発射を一時中断したモラトリアム破棄を示唆した。

 ただ、それ以降もミサイル発射実験は行ったものの、すべて短距離弾道ミサイルに限定していた。

 北朝鮮側にも、「核実験やICBM発射実験を行えば、米朝交渉が完全に破綻する」という認識があったと考えられる。

米国に対する「信頼構築措置」再考

 では、なぜここにきて、再度、核実験やICBM発射実験の再開を示唆したのだろうか。

 労働新聞は、今回、政治局会議において対米政策を見直した理由について、次のように伝えている。

 「米国は朝米首脳会談以降、近年だけでも自分らが直接中止を公約した合同軍事演習を数百回にわたって行い、各種の戦略兵器実験を行う一方、先端軍事攻撃手段を南朝鮮に搬入し、核戦略兵器を朝鮮半島の周辺地域に投入して我が国家の安全を重大に脅かした」

 さらに、

 「我が国家を悪辣(あくらつ)に中傷、冒涜(ぼうとく)しながら、およそ20余回の独自の制裁措置を講じる妄動を働き、特に現米行政府は、我々の自衛権を骨抜きにするための策動を執拗に続けている」

 このように、米国の「敵視政策」を検討した結果、米国に対する「信頼構築措置」を全面的に再考し、中止してきたすべての活動(核実験、ICBM発射実験)の再稼働を検討するよう担当部門に指示したというのだ。

 最近、米国が対北制裁を解除するどころか、強化する動きを見せている上に、今春予定されている米韓合同軍事演習も中止される気配がないことから、危機感を募らせたものと考えられる。

米朝対話のために瀬戸際外交展開か

 では、北朝鮮は本当に、核実験やICBM発射実験を行うのだろうか。

 対北国連制裁解除に向けて、昨年から中国やロシアが動いていることを踏まえると、中ロの意向を無視して独断で強行するとは考えにくい。

 また、北朝鮮も、「核実験やICBM発射実験を行えば米朝関係が破綻する」という認識から、容易にレッドラインを越えることはないだろう。

 だが、2019年以降、米朝交渉が停滞し、ジョー・バイデン政権が対話を口にしつつも、まったく米朝交渉が再開しないことから、北朝鮮が相当のいら立ちを感じていることも確かである。

 バイデン大統領は、国内外で抱えている問題が多くて、北朝鮮問題は優先事項ではない。

 そのため、北朝鮮側としては、いわゆる瀬戸際外交と称されるようにバイデン大統領を米朝対話に引きずり出すために、レッドラインぎりぎりで行動する可能性は十分にある。

 もし、北朝鮮が核実験やICBM発射実験を強行すれば、バイデン政権にとっても、トランプ前政権で築いたモラトリアムが撤回されたことについて、共和党から責任を追求されるリスクもある。

 そういう意味では、核実験やICBM発射実験というカードを、北朝鮮は最後のカードとして認識しているのかもしれない。

八島 有佑
@yashiima

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