対北強硬派の尹錫悦候補に辞退要求

対北強硬派の尹錫悦候補に辞退要求

1月18日付の労働新聞より1月17日、北朝鮮が今年4回目となるミサイル発射実験を実施(提供 コリアメディア)

 韓国大統領選挙が残り50日に迫る中、北朝鮮の動向が注目されている。

 北朝鮮の宣伝メディア「統一のこだま」は1月22日、保守系野党の国民の力所属で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補に対し、「戦争狂」と非難して、大統領選挙への辞退を要求した。

 尹錫悦候補が最近、「対北先制攻撃論」を唱えていることに反発したものである。

 一方で、文在寅(ムン・ジェイン)政権と同じ、革新系与党の共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)候補を後押しする様子でもない。

 北朝鮮は昨年11月に、尹錫悦候補を「あまり成熟していない酒」、李在明候補を「腐った酒」、野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)候補を「混ぜこぜにした酒」とこき下ろし、主要候補を全員酷評している(対外宣伝メディア「メアリ」)。

 そのほか、与党候補が不利になるミサイル発射を繰り返すなど、不可解な行動が目立つ。

 一体、北朝鮮は韓国大統領選挙をどのように捉えているのだろうか。

先制攻撃論を提唱する保守系・尹錫悦候補

 北朝鮮にとって、特に望ましくない次期大統領候補は、今回、候補者辞退を求めた尹錫悦候補だろう。

 尹錫悦候補は、これまで繰り返し、対北政策で強硬発言を行なってきた。

 1月11日の会見では、「北朝鮮が核を搭載したマッハ5以上のミサイルを発射すれば、首都圏に到達して大量殺傷するのに1分とかからない」として、「挑発の兆しがある場合、キルチェーンという先制打撃しかない」と主張した。

 今回、北朝鮮の非難の的となった先制攻撃論である。

 また、14日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した直後には、「主敵は北朝鮮」とフェイスブックで投稿している。

 「主敵」との表現は、1990年代に韓国の国防白書で見られた表現。2000年代以降は南北対話が進んだこともあって使用されなくなったものを、再び引っ張り出してきたのである。

 このように、尹錫悦候補は、他の候補者と一線を画し、北朝鮮に厳しい態度で臨んでいる。

 ちなみに、今回(22日)、北朝鮮から候補辞退を要求された尹錫悦候補であるが、自身のフェイスブックで、「辞退するつもりはない。韓国国民が最優先」と反応している。

南北共存を表明する革新系・李在明候補

 これと相対するのが、共に民主党の李在明候補である。

 李在明候補は、「文在寅政権と異なって北朝鮮の言いなりにはならない」という姿勢を示しているが、どちらかと言えば、現政権に近い考え方だ。

 これまでも、「対話と交渉を通じて(北朝鮮の核問題を)解決していかなければならない」と指摘するなど、南北対話・南北共存を目指すことも表明している。

 北朝鮮のミサイル発射実験に対して非難しつつも、抑制的である。

 前述の尹錫悦候補の先制攻撃論に対しても、「国家安保を政略的に利用する安保ポピュリズム」と批判しており、武力での解決に否定的である。

 このような態度から、もし李在明候補が次期大統領に就任すれば、文在寅政権の路線をある程度は継承するものと予想される。

北朝鮮のミサイル発射実験は革新系候補に逆風

 一般論として、北朝鮮は、現政権の対北政策に近い大統領候補を望むはずだ。

 だが、前述の通り、北朝鮮にとって望ましいはずの李在明候補を「腐った酒」と酷評している。

 その上、大統領選挙戦が終盤に突入する中で、北朝鮮は新型弾道ミサイル実験を繰り返し、1月19日には、核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射などの活動を再開することを示唆した。

 北朝鮮が「挑発行動」と指摘されるような動きをすれば、対話路線を進めてきた文在寅政権だけでなく、同じく革新系の李在明候補にとってもマイナスに働く。

 むしろ、対北強硬政策を唱える尹錫悦候補のような保守系が有利になる可能性すらあり、強硬派を後押ししているような状況である。

対米政策集中で韓国大統領選が眼中にない可能性

 このように、韓国大統領選挙を踏まえると、北朝鮮の行動は非常に不可解だ。

 考えられるのは、北朝鮮の目は米国に向いており、韓国大統領選挙が眼中にないという可能性である。

 北朝鮮としては、南北対話に積極的であった文在寅政権の間に、米朝交渉を進めることができなかった事実を重く受け止めているはずだ。

 そうであれば、もはや、次期韓国大統領が保守系であろうと革新系であろうと、米国が動かなければ意味がないと認識しているとも考えられる。

 実際のところ、文在寅政権に対して沈黙を続けており、北朝鮮の対韓方針は判然としない部分が大きい。

 一般的に言えば、残り任期わずかとなった文在寅政権を相手に、北朝鮮が南北対話を進めるとは考えにくいが、文在寅大統領本人は,いまだに南北対話の進展を諦めていない。

 北朝鮮が、文在寅政権をどのように見ているのか、今後の対韓発言に注目したい。発言次第では、与党候補にとって、追い風にも逆風にもなるからだ。

 もし何らかの対韓メッセージを出すとすれば、2月に予定されている最高人民会議か、どこかのタイミングで朝鮮労働党中央委員会総会など重要会議を開催する可能性がある。

八島 有佑
@yashiima

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