スタバも運営する財閥No.2がSNSで起こした騒動
デパートやホテル、スターバックスコーヒーなども運営する新世界グループ副会長・鄭溶鎮(チョン・ヨンジン)氏が新年早々にやらかした。
「最後まで生きるぞ。滅共」
と、自身のインスタグラムに投稿したのだが、それが騒ぎを引き起こした。
この書き込みは、暴力扇動を禁じるガンドラインに違反しているとして、すぐに削除された。
しかし、鄭氏は大手財閥のナンバー2なだけに社会的影響も多大。韓国民の間では擁護派と批判派が激しい舌戦を繰り返し、また、財界や政界にも影響が及んでいるという。
1月中旬になると、新世界の株が大量に売られて急落。これも副会長のSNSへの投稿が要因だとみられている。「滅共」の書き込みが中国を刺激するのではないか、と。
グループ傘下のスーパーマーケットや化粧品事業などが中国にも進出しているだけに、その逆鱗(げきりん)に触れたら大変だ。
また、韓国内でも新世界グループ傘下のスタバに対する不買運動を画策する動きもあるとか。
投資家たちはそれを心配しているようだ。
軍政時代は誰もが叫んだスローガン
さて滅共という言葉だが、日本人にはあまり聞き慣れない。
世界が自由主義陣営と共産主義陣営に分かれて対立した冷戦時代。その最前線で、北朝鮮と対峙する韓国は世界有数の反共国家。当時の軍事政権下では、共産主義を滅ぼすという意味で滅共のスローガンがよく叫ばれた。
この言葉は今も韓国のあちこちで目にすることができる。
たとえば、38度線に近い江原道鉄原郡には、今でも「滅共OP」と名付けられた監視所がある。朝鮮戦争の激戦地として知られ、1985年には建設されたこの監視所も観光名所として知られている。
また、韓国軍兵士のヘルメットに書かれた「滅共統一」の文字は消されておらず、徴兵で毎年大量に軍隊に入る若者たちは、この文字を見ながら日々の厳しい訓練に励んでいるのだ。
国民の支持で残った国家保安法
最近の韓国では、街中で滅共のスローガンを叫ぶ者などいないだろう。だが、誰もがよく目にしており、その意味をよく知る。
今回の騒動で、久しぶりに滅共のスローガンに触れ、自国が反共国家だったことを思い出しただろう。
もちろん、現在も韓国が反共国家であることには変わりはない。
1948年に制定された国家保安法では、共産主義を賛美する行為およびその兆候があれば、すべてが取締りの対象になる。
この法律は、韓国が民主化されてから廃止が検討されたこともある。しかし、国民の圧倒的支持でいまだ健在。
2014年にもネット上で北朝鮮を賛美した中国人留学生が、国家保安法違反となって国外退去処分になっている。
進歩派には忘れ去りたい呪いの言葉か?
進歩派には忘れ去りたい呪いの言葉か?
いまだ反共国家の韓国において滅共は正義の言葉、誰が叫んでも良いはず…、なのだが、北朝鮮との宥和に傾倒する現政権やその支持層には具合が悪い。悪しき過去として葬りたい言葉なだけに。
「滅共は、過去の軍事政権が民主派を弾圧する時に使った悪い言葉だ」
「いつの言葉なのか?まったく時代遅れだ」
などと、与党議員は火消しに走ったが、それが火に油を注ぐこと結果に。
文在寅(ムン・ジェイン)政権に反発する層は滅共という言葉を用いて、SNSに民主派・進歩派を揶揄(やゆ)するような投稿を繰り返す。与党支持層もそれに反論するが、ここでもまた滅共が氾濫している。
封印するどころか「滅共」の2文字が韓国内にあふれ続けているのが現状。
もしも、韓国に流行語大賞があれば、候補にノミネートされそうな感じもあり、だ。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。