脱原発から原発建設再開へと方針転換

脱原発から原発建設再開へと方針転換

原発建設再開を決定した尹錫悦大統領 出典 尹錫悦公式フェイスブック

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、前の文在寅(ムン・ジェイン)政権がとってきた脱原発政策を破棄し、建設途中で中止されていた原発の工事再開を決定した。

 発電量のうち原発の割合を2030年までに現在の27%から30%にまで増やす方針だ。

 さらに、韓国政府は、原発関連産業を活性化させ、2030年までに原発10基を輸出し、およそ4000億ウォン(約417億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の独自開発を進めることにしている。

 尹大統領は、5日の閣議でこうした内容を盛り込んだ「新政府エネルギー政策方向」を決定し発表した。

文政権下で「無惨な廃墟」となった韓国原発産業

文政権下で「無惨な廃墟」となった韓国原発産業

建設再開が決まった新ハヌル原発 出典 Canis70 [Public domain], via Wikimedia Commons

 原発建設の再開が決まったのは、文政権が成立した2017年に工事が中止された慶尚北道蔚珍郡の新ハヌル3号機と4号機。

 原発の主要部品の生産・建設に参加していた主要企業「斗山エナビリティー」の場合、新ハヌル3、4号機の原子炉・蒸気発生器の製作にすでに4900億ウォン(約511億円)を投じた状態での建設中止だった。

 また、朴槿恵(パク・クネ)政権下の電力需給計画で原発関連の需要が高まることを見込んで、2014年に2000億ウォン(約208億円)を投資し、韓国型次世代炉APR炉型原発を建設するため、世界最大の1万7000トンのプレス機を製作するなどの設備投資を行った。

 しかし、こうした投資も文政権の下では完全に手足を縛られ、まったく無駄な投資となっていた。

 尹大統領は、先月22日、慶尚南道昌原市にある斗山エナビリティーを視察し、現在の韓国原子力業界の状況を「“脱原発爆弾”が爆発し、廃墟と化した戦場だ。原発産業がこの数年間、困難を強いられてきたことは残念だった」と述べた。

韓国の原発輸出をトップセールス

 その上で「原発を予算に合わせてタイムリーに施工する『オンタイム・オンバジェット』は、世界のどの企業もまねができない我々の競争力だ」「5年間のばかげた政策がなければ、韓国の原発産業は強固な基盤を構築し、おそらく世界にライバルはいなかったはずだ」とし、文政権の脱原発政策を「ばかげた政策」とまで酷評し、批判したという(朝鮮日報社説6月23日付)。

 尹大統領は、先月末に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席し、欧州を中心に10か国と2国間会談を行った。この席でトップセールスしたのも韓国の原発輸出だった。

原発推進でカーボンニュートラル達成目標も維持

 韓国政府は、新しいエネルギー政策に基づき、現在稼働している原発の稼働中断を最小化する一方、現在建設中の原発4基を計画通りに完成させることにしている。

 新ハヌル1号機は、今年下半期、2号機は来年下半期の竣工が予定され、新古里(シンゴリ)5・6号機は、それぞれ2024年下半期、2025年下半期に工事を終える計画だ。

 韓国政府は、新しいエネルギー政策が実施されれば、2050年までのCO2の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成を目指す目標は変更せず、原発や再生可能エネルギーなどの拡大によって、2030年には、化石燃料の輸入依存度を従来の80%から60%に削減できるという見通しを立てている。

 また、エネルギー関連の有望技術分野を中心にベンチャー企業を育成し、2020年に2500社だったこの分野の企業数を、2030年までに2倍に増やす計画で、脱原発政策から「原発立国」へと完全にかじを切った形だ。

データ改ざんまでして原発停止を急いだ文政権

 文在寅政権下での脱原発政策と言えば、稼働中だった月城(ウォルソン)第1原発を強制的に停止させるために、韓国水力原子力と産業通商資源省が、原発の経済性を不当に低く評価するためにデータを改ざんや捏造(ねつぞう)した疑いがあることが、2020年10月の監査院の監査報告で判明している。

 また、この監査の過程で、産業通商資源省の職員が夜間、オフィスに侵入し、パソコンから関連文書のデータを消去した疑いがあることが発覚している。

 その文政権は、国内での脱原発を公約に掲げた一方、原発の海外輸出は積極的だった。

 2018年4月、板門店で行った南北首脳会談では、文在寅氏は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との散歩中にUSBメモリーを手渡したことが知られている。

 驚くべきことに、このUSBには「新経済構想」という名の南北協力案とともに、原発の設計図が含まれていたのではないかといううわさが絶えない。

 文在寅政権の脱原発政策を巡る「深い闇」は、尹錫悦政権の検察の手によって、いま厳しい捜査の対象となっている。


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小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から現在までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。

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