20年前から量産されている第4.5世代

20年前から量産されている第4.5世代

KF-21の試作1号機を前にスピーチする文在寅大統領 出典 文在寅公式フェイスブック

 7月19日に韓国航空宇宙産業が開発した新型戦闘機KF-21ポラメ(若鷹)が初飛行に成功した。

 ステルス性能はないが、対地攻撃能力を有するマルチロール機だ。ステルス機であるF35は、ジェット戦闘機の第5世代であり、KF-21はそれに次ぐ4.5世代に分類される。

 F16をベースに日本が米国と共同開発したF2、英国のユーロファイター・タイフーン、フランスのラファールなどもKF-21同じ第4.5世代なのだが…。これらはすべて20年ほど前から量産が開始されている機体だ。

 韓国空軍でも、すでにF15を戦闘爆撃機に改良した第4.5世代のF15Eを運用している。先進諸国が今後運用する主力戦闘機には、ステルス性能を有する第5世代機が求められるだろう。

 また、現在は完全無人自律飛行や大陸間長距離飛行を可能とする第6世代戦闘機の開発も始まっている。そんな時代に「なぜ今さら、こんな機体を?」と、思ってしまうのだが。

1機約80億円は果たして安いか高いか?

 KF-21の開発費は8兆5000億ウォン(約8500億円)、1機あたりの価格は800億ウォン(約80億円)になる見込みだという。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には2028年までに40機、2032年に120機以上を配備する目標が立てられている。開発費と合わせて18兆1000億ウォン(約1兆8100億円)になる。

 F15の調達価格は、1機あたり120億円程度と言われる。開発費を含めれば、こちらを購入したほうが安い。

 F15の性能は世界的に高く評価され、韓国空軍でもすでに運用しているだけに使い勝手も良いだろう。同じ第4.5世代機ならば、新たに戦闘機を開発するよりよっぽどお得と思うのだが。

 当初はインドネシアもKF-21の共同開発に参入し、最大48機の購入を予定していた。

 しかし、2022年2月にはこれをキャンセルし、フランスからラファール戦闘機42機、米国からはF15イーグルの最新型EXを36機の購入する発表している。

 ラファールはF15よりも安いが、それでも1機あたり7000万ユーロ以上の価格になる。日本円だと約97億円。KF-21よりは高い。

 が、それでもインドネシアは、同じ第4.5世代戦闘機であれば、すでに実戦配備されて実績と信頼のある機体を選んだようである。

2000回の試験飛行を経て2026年に量産開始予定

 インドネシアが共同開発から降りて韓国の単独開発となったことにより、韓国は開発費の捻出に苦労を強いられるだろう。

 また、KF-21は2026年に予定される量産開始までには、今後2000回ほどの試験飛行が必要とされる。まだまだ試練が待ち受けていそうなのだ。

 しかし、戦闘機を自国開発できれば、技術の育成や部品の供給や整備に関してもやりやすくなるなどメリットは多々ある。

 また、兵器輸出への道も開けるから、費やした資金を回収できる可能性も出てくる。つまり、ここで止めるわけにはいかない。

 韓国はすでにロッキードの技術供与で練習機TA-50、その派生型である軽戦闘機FA-50の開発に成功し、これらをインドネシアやフィリピン、タイなどに輸出した実績がある。

 KF-21は、もっと売れるはずだと皮算用をはじいているのだろう。性能が実証され量産体制が整えば、状況は変わってくるはずだ、と。

アジアやアフリカでは売れる可能性大?

 最新鋭の第5世代ステルス戦闘機を購入できる国は限られている。アジアやアフリカでは、時代遅れの第4.5世代戦闘機にもまだかなりの需要がある。

 同世代の欧米製戦闘機と同等の性能で、それよりも価格が安いとなれば、興味を示す国も多いはず。

 KF-21には、米国からの技術供与も多く輸出には制約はあるが、それがクリアできれば良い商売になる可能性はある。

 改めて考えてみればサムスンも、昔は古い技術の寄せ集め。同レベルの他国製品よりも価格が安いということで市場に食い込み、やがてはソニーやパナソニックを追い抜いて今日の地位を築いた。それを狙っているのか。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。

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