深夜未明4時間にわたる肉弾戦と怒鳴り合い

深夜未明4時間にわたる肉弾戦と怒鳴り合い

新自由連帯の集会22年7月23日(著者撮影)

 9月11日の日曜日の深夜、しかも家族が集まる1年で最も大切な中秋節の連休のさなか、ソウル鐘路(チョンノ)区の旧日本大使館前、慰安婦少女像が置かれている道路は、時ならぬ喧噪(けんそう)に包まれた。

 時間は夜10時から翌未明2時にかけて。慰安婦像の撤去を要求する保守系の市民団体と、少女像を守って傍らに張り付き24時間見張りをしている左派系の団体が、警備の警官隊を挟んで激しい肉弾戦の攻防を繰り広げたのである。

 その模様は、複数のユーチューバーによって生中継され、日本のユーチューバーもその映像を使って日本語の解説付きでその一部始終を伝えた。

 それによると、現場の慰安婦少女像前に、保守系の市民団体「新自由連帯」のメンバーが到着したのはその日の夜9時40分頃。

 「少女像を守る」と称して、24時間、すぐ横で陣取っている左派系の学生を中心にした団体、その名も「反日行動」のメンバーが交代する時間帯を狙って慰安婦像のすぐそばで集会を開こうという奇襲作戦だった。

事前に届け出しても警察が集会を阻止?

 この日の夜10時からここで集会を行うことは、事前に警察に届け出て、許可を得ていたという。

 しかし、旧日本大使館前で警備のために配置された警官隊は、新自由連帯のメンバーが慰安婦像に近づくのを隊列を組んで阻止。集会の届け出があるかどうかを鐘路警察署の担当者に確認するというのがその理由だった。

 警官隊は担当者と連絡が取れないとして、その後も40分あまりにわたって集会の開催を阻止。

 その間に、当初はたった1人だった反日行動のメンバーが仲間に連絡し、警官隊が集会を阻止してから15分後には、別の1人が駆けつけるなど、続々とメンバーが集結し、新自由連帯のメンバーと対峙することになった。

 双方は、車のスピーカーやハンドマイクの音量を最大にして互いにののしり合い、反日行動のメンバーが少女像と自分の体を現場にあった横断幕で巻き付けたり、少女像の周囲に立て看板を建てたりして、新自由連帯のメンバーが慰安婦像に触れるのを阻止しようと必死だった。

 ある激高した反日行動のメンバーが、角棒を振り回して暴れたため、警官に取り押えられて連行されたり、慰安婦像の傍らに座り込んでユーチューブの映像を撮っていた新自由連帯側の中年女性が、反日行動のメンバーから暴行を受けたといって車椅子で運び出され、救急車で運ばれるシーンなどもあったりした。

傍観するだけで好きにさせる警察

傍観するだけで好きにさせる警察

旧日本大使館前に駐車する警察バス(著者撮影)

 最初は慰安婦像の周囲に隊列を組んで集会を阻止していた警官隊だが、反日行動のメンバーが駆けつけると、慰安婦像から少し離れたところで傍観するだけで、互いのメンバーの行動を制止することはほとんどなかった。

 警察の役割は、慰安婦像が破壊されるなどの暴力行為がない限り、互いの団体の行動は「集会の自由」として、好きにさせるという方針のように見えた。

 しかし、深夜にもかかわらず、延々と騒音をまき散らすものだから、近くのホテルの宿泊客からは、直接苦情が寄せられる始末で、翌日、鐘路警察署は、深夜の集会は取り締まると宣告せざるを得なかった。

集会の場所取りを巡る攻防から始まった「座り込み」

集会の場所取りを巡る攻防から始まった「座り込み」

少女像の隣りに陣取る反日行動(著者撮影)

 ところで、慰安婦像を巡る反日行動と新自由連帯の攻防は、2020年6月、慰安婦支援団体を巡る会計不正問題が大きく取り沙汰された時期にまでさかのぼる。

 中央日報9月15日付の記事によると、新自由連帯は集会開催の警察への届け出が30日前から受付開始となる制度を逆手に取り、集会30日前の午前0時に届け出を行い、集会場所を先に押さえる権利を確保してきた。

 新自由連帯による慰安婦像付近での最初の集会が開催されたのが2020年6月24日のこと。

 これに対して反日行動側は、少女像に自分の体を縛りつけるなどして抵抗し、その日以来24時間徹夜体制での見張りに入り、雨の日も雪の日も交替での座り込みが現在まで続いている。

 普段の慰安婦像周辺は、反日行動のメンバー1人が少女像の隣りの縦横・高さ1メートルほどのボックスの中に、日よけの傘をかぶって陣取っているほかは、空き地になった旧日本大使館のフェンス沿いに警察の大型バスが3台駐車し、その周囲で数人の警官が監視しているだけで、人や車の通行も少ない静かな通りだ。

正義連の水曜集会は慰安婦像周辺から排除されている

正義連の水曜集会は慰安婦像周辺から排除されている

慰安婦支援団体の集会7月23日(著者撮影)

 ところが、これが毎週水曜日の昼間となると一変する。

 慰安婦支援団体の「正義連」(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)が、「記者会見」と称して集会を開く一方で、慰安婦像の撤去を主張する新自由連帯や「慰安婦法廃止国民行動」といった保守系団体がすぐ近くで同時に集会を開くため、互いの激しいののしり合いや非難合戦で、一帯は騒然とした雰囲気になる。

 正義連の水曜集会は、前身の挺対協(挺身隊問題対策協議会)が1992年1月に始めて以来、30年間も続いている世界最多回数を誇る集会だと言われ、この9月15日には1561回目を数えた。

 しかし、最近では、新自由連帯に先に越されて、慰安婦像の周辺の歩道や車道は、集会場所としてすべて押さえられてしまっている。

 そのため、正義連は少女像の周辺では集会を開くことができず、旧日本大使館前の通りの一番端で、集会を開く状態となっている。

 新自由連帯側が毎回の集会で、「慰安婦は国際的な詐欺だ」「日本軍に強制連行されたり虐待されたりした慰安婦は1人もいない」「反日は精神病だ」などと大きなマイクの音でがなり立てられる中で、少女像を必死に守る反日行動の姿は、それこそ宗教的な使命感といった境地に達していると見えないこともない。

小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から2022年8月までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。

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