在韓米軍投入は「あり得る」

在韓米軍投入は「あり得る」

米韓の国旗を振って米空母を出迎える韓国軍水兵 出典 在韓米軍

 中国軍の台湾侵攻が現実味を帯びて、日本ではこの話題で盛り上がっている。

 それに比べると韓国では「対岸の火事」と国民の関心が薄く、これまでは韓国政府や有識者からも台湾有事に関するコメントはほとんど聞かれなかった。

 しかし、米国と軍事同盟を結ぶ国が、いつまでも他人事では済まされない。

 9月末にはエイブラムス前在韓米軍司令官が、米政府系「ラジオ自由アジア(RFA)」のインタビューで、台湾有事に在韓米軍が投入される可能性は「あり得る」と答弁。これが韓国内でも報道され、政府もかなり慌てた。

「中国の夢」を邪魔するのは怖い

 この件に関して、9月25日にCNNが尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領にインタビューしている。

 それによれば、中国が台湾を攻撃すれば北朝鮮が同調して韓国に挑発を行う可能性が高く、そのため、

 「韓国軍は北の挑発に対応するのが最優先だ」

 と、大統領は答えた。

 台湾有事が起きても韓国軍の主敵はこれまでと変わらず、あくまで北朝鮮であることを強調した。

 また、9月27日には韓国国防省も「対北朝鮮抑止が在韓米軍の最優先任務」とコメントして、大統領の答弁を補完している。

 確かに、北朝鮮が行動を起こす可能性は否定できない。

 が、コロナ禍の影響で国力が衰退した北朝鮮軍の通常兵力は、韓国に本格侵攻できる力はない。できることは、せいぜい挑発や嫌がらせ程度だろう。というのが、米軍関係者の認識だ。

 韓国にも同様の認識はあるはずだが、北朝鮮への対応を強調するのは、それを隠れみのに台湾有事に関わりたくないという意図だろうか。

 台湾との統一は、習近平国家主席が「必ず果たさなくてはならない」とする悲願。それを邪魔するような言動に、中国はこれまでも厳しい対応を見せてきた。

 韓国からすれば、「虎の尾を踏みたくない」といった意識が強いのだろう。

 しかし、台湾を取り巻く事態は、急速に緊迫の度合いを深めている。見て見ぬふりもそろそろ限界ではないだろうか。

約3万人の在韓米軍を使わぬはずがない

 台湾有事があれば、最初に動くのは在日米軍だ。

 総員3万6000人だが、大半が空軍や海軍の要員。陸上の戦闘を担う海兵隊の兵力は1万4951人と、これでは心もとない。

 また、海兵隊は紛争などに即応し、海軍や空軍の支援のもと橋頭堡(きょうとうほ)を築くことを目的とした軍隊組織である。

 装備や編成もそれに適したもので、さらに支配領域を拡大し長期的な紛争に対応するには不向きなところがある。

 海兵隊が橋頭堡を築いた後は、陸軍部隊の投入が不可欠になってくる。が、在日米軍の陸軍兵力は、米軍基地警備などを目的とする2500人程度で、戦力としては期待できない。

 一方、在韓米軍には、米陸軍第8軍を主力とする2万8500人規模の兵力が維持されている。

 台湾有事となれば、極東地域に展開する米陸軍最大の戦力に出撃命令が下る可能性は高い。

 2003年のイラク戦争でも在韓米軍の一部が投入された前例もあり、また、北朝鮮軍が本格侵攻する可能性が低いとみているだけに米国も躊躇(ちゅうちょ)しないだろう。

 米国と中国の板挟みに窮する韓国政府が、どこまで答えを濁していられるか。

 日本人からすれば、それについては他人事として傍観できそうだ。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA