有罪ならば公民権停止5年

有罪ならば公民権停止5年

文在寅前大統領(右)と李在明氏 出典 李在明公式フェイスブック

 韓国最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、北朝鮮による相次ぐミサイル発射の挑発に対抗して、日米韓3か国が日本海で行った対潜水艦共同訓練について、日本の自衛隊を正式な「軍隊」だと認めた「極端な親日行為」で「国防惨事」とまで言って非難した。

 ところで、その李在明氏は今、自身の政治生命に関わる重大危機を迎えている。

 先の大統領選挙の期間中、虚偽事実を流布したという公職選挙法違反で9月に起訴されている。

 もし、このまま最高裁判所までいって有罪が確定すれば、公民権停止5年で次の選挙には出られなくなる。

 それだけではない。大統領選挙で使った国費434億ウォン(約46億円)を国庫に返納しなければならない。

 そうなったら、共に民主党の本部ビルを売却してもまだ100億ウォン(約10億)足りないと言われ、党は解体の危機に瀕しているとも噂(うわさ)される。

京畿道知事時代に北朝鮮プロジェクトを推進

 選挙違反事件以外にも、城南(ソンナム)市長時代の大規模不動産開発など数々の不正疑惑で検察の追及が続いている。

 この捜査の過程では、捜査対象となった周辺の4人もの人物が不審死を遂げている。

 その李在明氏だが、数々の疑惑の捜査過程で、北朝鮮の利権に絡む企業や地下組織との関係、北朝鮮との資金のやり取りに関する疑惑にも、にわかに注目が集まっている。

 京畿道知事時代には、北朝鮮と関わる多くのプロジェクトを手がけたことは当時から、逐次報道されてきた。そのために「平和副知事」という肩書を作って側近を任命し、北朝鮮とのさまざまな取引や交渉に当たらせた。

北朝鮮の利権獲得に動いた企業との癒着

北朝鮮の利権獲得に動いた企業との癒着

李華泳氏が中心となり「平和の味」として京畿道へ支店を作る話し合いが進んでいた玉流館(平壌)

 その平和副知事を務めた李華泳(イ・ファヨン)氏は先月22日、収賄の容疑で逮捕されている。

 彼が手がけた北朝鮮との交渉に地下資源開発というプロジェクトがあるが、その利権を獲得して事業に参入しようとした韓国企業サンバンウルから法人カードを受け取るなどした収賄の容疑がかけられている。

 このサンバンウルは李在明氏が絡んだ裁判で、弁護士費用を肩代わりしたという贈賄の容疑でも取り調べを受けている。

 李在明氏や李華泳氏が手がけた北朝鮮とのプロジェクトは、他にも南浦港の港湾開発や平壌冷麺で有名な玉流館というレストランの支店を韓国に誘致するプロジェクトなどがあった。

 しかし、北朝鮮への多額の資金提供が必要なこうした事業は当然、国連安保理の北朝鮮制裁に抵触するもので、初めから計画の実現性はなかった。

北朝鮮の地下組織とみられる団体との会議共催

 一方、実現までにこぎつけた事業もあった。

 慰安婦など日本の“戦争犯罪”に関わる被害者と専門家らを集めた国際学術会議「アジア太平洋の平和・繁栄のための国際大会」の開催で、2018年11月に京畿道高陽(コヤン)市で、また、2019年7月にはフィリピン・マニラでそれぞれ開催している。

 国際会議の開催には、サンバンウルが多額の資金提供をしたほか、この会議を共催したのが「アジア太平洋平和交流協会」という民間の対北朝鮮交流団体だった。

 この団体は、北朝鮮の対外組織「アジア太平洋平和委員会」の下で、その指令を受けて活動するスパイ組織ではないかともみられている。

 実際にくだんの国際会議には、北朝鮮からアジア太平洋平和委員会のメンバーが出席している。

 アジア太平洋交流協会は数年前、北朝鮮の美術制作会社・万寿台創作社が制作した絵画40点を展示する絵画展を開催したことがあった。

 この際に、北朝鮮に見返りとして多額の現金が渡ったのではないかという疑惑も浮上している。

暗号資産として北朝鮮に資金流出の疑いも

 朝鮮日報日本語版(10月12日)によると、韓国国会での与野党攻防の材料に、韓国の資金が暗号資産(仮想通貨)として北朝鮮に流出し、それに李在明氏らが関わっているのではないかという疑惑も加わったという。

 金融監督局の調べによると、7兆ウォン(約7350億円)に上る資金が海外に流出したまま行方不明になっているという。

 この問題では、韓東勲(ハン・ドンフン)法務省長官が自らニューヨークまで出張し、米側と情報交換をしたのではないかとうわさされている。

 これについて、野党・共に民主党は国会で、李在明氏と暗号資産流出の関係を調査しにいったのではないかと追及したところ、逆に法務省長官から「犯罪の自己申告か内部告発でもしているつもりか?」と言い返されていた。

 そもそも北朝鮮のミサイル発射については何の議論も非難もせず、日米韓共同訓練を親日行為や国防惨事と決めつけた李在明氏の言行は、自身に降りかかる検察捜査の網を何とか振り切ろうとする最後のあがきとしか見えないが、与野党全体がそれに付き合わされている。

 それこそ国民の生存に関わる国防論議が、日韓の今後の関係にも関わる、あらぬ方向に飛び火している。

 検察の捜査の展開しだいでは、李在明氏の帰趨(きすう)を含めて、韓国の政局がどう転ぶか分からず、しばらくは目が離せない状況が続きそうだ。

小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
NHK香港支局長として1989~91年、1999~2003年駐在。訳書に許家屯『香港回収工作 上』、『香港回収工作 下』、パーシー・クラドック『中国との格闘―あるイギリス外交官の回想』(いずれも筑摩書房)。2019年から2022年8月までKBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。

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