北朝鮮の対南政策と対米政策の変化

北朝鮮の対南政策と対米政策の変化

北朝鮮の和解と米朝の「終戦」について講演する中川雅彦海外調査員

北朝鮮の対南政策と対米政策の変化

 7月5日、「日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所」は、「北朝鮮の和解と米朝の『終戦』」というテーマで講演会を開催した。講演会では、ソウルで北朝鮮情勢をウォッチしてきた中川雅彦海外調査員(ジェトロ・アジア経済研究所在ソウル海外調査員)が北朝鮮の対南政策と対米政策の変化について分析し、今後の朝鮮半島情勢の展望を語った。

対決から和解へ。北朝鮮の政策転換の理由

 2018年以降、北朝鮮は2月に平昌五輪に参加し、4月に南北首脳会談、6月に米朝首脳会談を行うなど、核・ミサイル開発実験を繰り返した昨年までの対決姿勢から一転、関係国との和解へ政策転換している。

 中川氏は、この北朝鮮の政策転換の理由について、「経済制裁に耐えられなくなり対話に出てきたという『経済制裁効果論』、反対に経済制裁は核・ミサイル開発の意志に影響を及ぼしておらず、核・ミサイル開発が完成したため予定通りに対話に出てきたという『経済制裁無効論』の2つの見解がある」と述べ、それぞれの見解について分析した。

検証1「経済制裁効果論」

 中川氏は、「『経済制裁効果論』は、北朝鮮の経済動向を分析する上で韓国銀行推計値を指標にして、経済制裁の効果が現れているとしている。しかし、この数値は韓国国家情報院の資料を元に算出しており、外部には元資料が公表されないため、その正確さについては検証不能である。また、北朝鮮の経済成長率が不適切な方法で算出されているため、実際の数値とは乖離している可能性がある。逆に、北朝鮮側公式発表数値では高い経済成長率を示しており、これがまったくのデタラメであるとは考えられない」と述べ、「経済制裁効果論」の依拠する韓国銀行推計値の問題点を指摘した。

 さらに「『KOTRA(大韓貿易投資振興公社)』による北朝鮮の対外貿易動向数値では、最新データである2016年まで、制裁による貿易取引の縮小が確認できない。北朝鮮は、食糧事情・エネルギー事情の改善、平壌市を中心とした消費の拡大などの要因により内需主導型の成長をしており、一般市民は経済制裁の痛みをほとんど感じていないようだ」と続け、「経済制裁効果論」は誤った経済認識に基づいているとした。

検証2「経済制裁無効論」

 中川氏は、経済制裁そのものについて、「経済制裁の有効性は、相手国が経済的な苦痛によって政治的意志を変化させるか否かが問題である。政治的に安定し、強い意志をもった相手に対して直接的な効果を期待するのは難しい」と述べ、経済制裁をかける相手国の政治的意志の強度を分析しなくてはならないとした。


 加えて、北朝鮮の対米政策の歴史について、「冷戦時、北朝鮮は『帝国主義滅亡論』を唱え、将来、米国は亡びると本気で考えていた。しかし、1970年代、米中接近により目標が『米国の滅亡』から『米国との妥協』へと変化し、北朝鮮は米国に対し、平和協定の締結と在韓米軍撤収を求めるようになった。一方、米国の北朝鮮に対する最大の関心事項は核・ミサイル問題であった。1990年代、北朝鮮は核兵器開発疑惑を利用して米国を対話の場に引きずり出すことに成功したが、ブッシュ政権誕生により戦略を変えざるをえなくなった。その結果、『核兵器による抑止力』、『米国を対話に引きずりだす』という目的のために、核保有の道を進むことを決意し、2006年に第1回核実験を決行した。その後、オバマ政権の『戦略的忍耐』により核武装はさらに進展した」と分析した。

 その歴史を踏まえた上で、「北朝鮮の核武装は、米国との全面戦争を念頭に置いているのではく比例的抑止である。核兵器の大量保有は戦略上無意味であり、抑止力の完成後、対話路線への転換は必要であった。米国にこれまでの大統領とは様々な意味で異なるトランプ政権が誕生し、韓国では南北対話に積極的な文在寅政権が米朝の橋渡しをになった。金正恩党委員長にとって核放棄と引き換えに米朝平和協定を結ぶには絶好のタイミングであった」として、北朝鮮の政策転換は経済制裁が主要因ではなく元々の戦略であるとした。

北朝鮮の核廃棄は本当に実現するのか?

 中川氏は、「金正恩党委員長は核抑止力を捨てると公言しており、米国の動きによって撤回する可能性は否定できないが、少なくとも現時点で非核化に本気であるといえる。トランプ大統領は自身が政権を握っている間に北朝鮮の核廃棄を実現させるという考えであり、あまりマスコミには取り上げられていないが米朝会談後の記者会見で、『北朝鮮は核廃棄の工程の2割くらい進めば後戻りはしないだろう』と発言しているため、楽観的なのかもしれない」とし、北朝鮮の核廃棄についてある程度順調に進むのではないかとの見解を示した。

立山達也

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