貿易会社が経営に関与していることが多い丹東の北朝鮮レストラン。現在も営業している綾羅島

北朝鮮を支える丹東の闇 英シンクタンク調査報告書を読む(1/2)の続き。

 前回に続いて、北朝鮮の経済において丹東がどれだけ大きな役割を果たしているか紹介したい。RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)の報告書を抄訳したものだ。今回は、北朝鮮の資源と繊維製品の輸出についての部分である。

禁輸後も石炭、鉄鉱石の輸入を続ける丹東企業

 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議に照らすと、丹東から北朝鮮への輸出の98パーセント、輸入の37パーセントは決議違反に当たる

 国連安保理は2016年3月に採択した決議2270号で北朝鮮の石炭輸出を禁止した。また2016年11月の決議2321号、2017年9月に2371号などを通じて北朝鮮の石炭と鉄鉱石の輸出も禁止している。

 ところが、2016年3月から2018年1月の間に、丹東地域150社のうち20社が北朝鮮産の石炭を輸入しており、うち15社は鉄鉱石の輸入していた

北朝鮮の資源は東南アジア、韓国にまで輸出される

北朝鮮の資源は東南アジア、韓国にまで輸出される

遼寧省撫順の中国企業出展ブース(平壌・国際貿易商品展示会2019年9月撮影)

北朝鮮の資源は東南アジア、韓国にまで輸出される

 特にこれらの企業のうち、北朝鮮の最大の取引先は「丹東至誠金属材料有限公司(Dandong Zhicheng Metallic Material)」だ。

 北朝鮮産の無煙炭と鉄鉱石を輸入したあとベトナム、マレーシア、インド、台湾はもちろん、韓国にまで輸出した。対北朝鮮制裁決議2270号が採択された2016年3月以降も、マレーシアに38万ドル分相当の北朝鮮産無煙炭を輸出した。

 北朝鮮と長い協力関係を持つ「丹東祥和商贸有限公司(Dandong Xianghe Trade)」も2014年から2017年の間に、北朝鮮から約3000億ドル分の天然資源を輸入した。

 この2つの会社はすべて米国財務省から制裁対象に指定されたが、企業は今も活動している。2019年に北朝鮮で開かれた平壌見本市にも参加し、北朝鮮と緊密な関係を維持している。

繊維製品も丹東の企業が輸入

 比較的見落とされているのが、北朝鮮の繊維産業(アパレル)だ。中国から北朝鮮に向けて、原料が送られ、北朝鮮国内で衣料品に加工されて、再度中国に輸出される。

 国際貿易データによると、北朝鮮への繊維原料の輸出は全輸出の20から30パーセント前後を占めており、相当な量となる。

 2017年9月の国連安保理決議2375号で、北朝鮮への繊維原料の輸出が禁止された。2017年12月22日の決議2397も、「北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルプログラムに貢献する」貿易を幅広く禁止している。

 ところが繊維製品加工の外注は依然として続いている。繊維製品の加工貿易には、軍が関与している。たとえば、「Korea Ponghwa Trading Corporation(조선봉화무역총회사)」と「Korea Daesong Trading Corporation(조선대성무역총회사)」がある。

 この2つの企業は、北朝鮮国内に37の衣料品専門工場を共同で運営している。編み物専門工場、2つの手編み工場、1万8000人の労働者が働く専門家養成所などがある。

 国連安保理傘下の専門家パネルによれば、Ponghwa社は、対外経済に関連する内閣の委員会の傘下にあり、米国の経済制裁の対象としている「金剛銀行(금강은행)」に関連している。

 Daesong Trading社は、北朝鮮の指導者のために収入を生み出すことを任務とする39号室傘下にあり、米国および国連安保理の制裁対象だ。
 

北朝鮮製の繊維製品はアメリカ大陸にも

北朝鮮製の繊維製品はアメリカ大陸にも

航行する北朝鮮船舶と船員(著者撮影)

 輸出先は中国だけでなく、ロシア、日本、韓国、ヨーロッパ、南、北アメリカに広がっている。北朝鮮の繊維製品の取り引きをしている代表的な会社は、「Dandong Jinxiang Trade(丹東綿祥貿易有限公司)」だ。同社は2018年に米国から制裁対象に指定されている。

丹東に注意すべきだと警告

丹東に注意すべきだと警告

中朝友誼橋をゆっくりと中国へ向けて移動するトラック

 中国では、貿易データが必ずしもすべて公開されているとは限らないため、貿易の実態が把握しにくいが、この報告書は「北朝鮮貿易に占める丹東の存在を意識し、貿易や金融取引をするさい、注意すべきだ」と警鐘を鳴らしている。

 報告書のダウンロードはここから。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

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