北朝鮮に無関なし61.1%

北朝鮮に無関なし61.1%

2018年4月28日に板門店で行われた南北首脳会談(提供 コリアメディア)

 昨年、2020年は朝鮮戦争勃発から節目の70年にあたった。南北の両政権が互いに正当性を主張し、全面的な武力衝突に発展。停戦後も38度線を境ににらみ合いが続き、朝鮮半島の分断は固定化された。以来、互い交流できぬまま長い年月が流れたが、祖国を統一して再び民族が1つになることは、全韓国民の悲願…のはずが、最近はそうでもないらしい。

 開戦記念日となる6月25日に合わせて、韓国統一部は1000人を対象に「統一の意識調査」を行っている。その結果を見ると、61.1%が「北朝鮮には関心がない」と回答。戦争せず平和的に共存できるのなら「統一は必要ない」という回答も54.9%と過半数を越えていた。

統一にかかわる莫大なコストに若者たちの腰は引ける

 父祖の世代には、北朝鮮に住む親類や友人と交流した記憶がある者は多く、それだけに同族への親近感は強い。また、状況的に北からの攻撃が充分にありそうな冷戦期は、毎週のように防空訓練が行われ、軍は常に臨戦態勢だった。加えて、同族が壮絶な殺し合いを行った戦争の記憶もまだ色濃く残り、親近感だけでなく憎悪や警戒感を抱く者も多かった。愛憎が渦巻く、嫌でも意識してしまう相手だった。

 しかし、若い世代にはそれがない。現在の状況には冷戦期ほどの危機感はなく、北からの本格侵攻はあまり考えられない。さらには70年間の疎遠な関係で同族意識も薄れている。

 2000年代に入った頃から、韓国の保守層にはニューライトと呼ばれる勢力が台頭するようになっていた。彼らは古い保守層とは違って南北統一には関心がなく、経済崩壊と飢餓にあえぐ同胞には冷淡で「北朝鮮崩壊後は、周辺諸国で共同管理するべきだ」という意見が目立つ。

 南北が統一されると、北朝鮮にも韓国と同レベルのインフラや生活環境を整えねばならない。それには日本円にして200兆円が必要という試算がある。そんな負担を強いられるくらいなら、このまま他国でいてくれたほうがいい。それが本音だ。

現政権の支持層にも統一を支持する者は少ない?

現政権の支持層にも統一を支持する者は少ない?

平昌冬季オリンピック開幕式へ参加した金与正氏ら(提供 コリアメディア)

 一方、冷淡な保守層に比べて韓国の左派・進歩派と呼ばれる人々は、北朝鮮にシンパシーを抱き統一を願う者が多いと言われる。が、その左派傾向の人々にも温度差がある。

 左派の現政権が誕生すると、南北は急接近して蜜月ムードに。2018年の平昌冬季オリンピック開会式では、南北選手団が統一旗を手に合同入場した。「統一が実現するのではないか?」と、そんな期待を抱かせるシーンだったが、ろうそくデモで左派政権の誕生を支持した若者たちはこの時も、「平和な交流は望むが、南北統一までは望まない」と、一応は文在寅大統領を支持しながらも、北朝鮮に急接近する大統領に躊躇(ちゅうちょ)する者が多かった。

20、30代で統一支持は18%。望みは現状維持

 就職難で生活保障もない非正規雇用が増える現状、統一の夢よりも現実の生活への心配が大きい。統一に要する費用負担で、自分たちの生活が脅かされてはたまらない。その意識は支持政党にかかわらず、韓国の若者たちの共通しているようだ。

 統一の意識調査の集計結果を見ても、20~30代に限れば南北統一を支持する者は約18%しかいない。大半は現状維持を望んでいる。

 ミレニアル世代が政財界の中心となって活躍する近未来には「南北統一」という言葉も、歴史の教科書のなかでしか目にできないものになるのかもしれない。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。

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