宋永吉「核拡散防止条約は不平等条約」

宋永吉「核拡散防止条約は不平等条約」

共に民主党・宋永吉議員 出典 「ツイッター

宋永吉「核拡散防止条約は不平等条約」

 韓国で宋永吉(ソン・ヨンギル)国会外交統一委員会委員長(「共に民主党」所属国会議員)の発言に注目が集まっている。同氏は14日、国会で「5000発以上の核兵器を保有している米国が、北朝鮮とイランに核を持つなと強要できるのか」と発言したことで、野党からは「北朝鮮の核保有を容認するのか」などの非難が相次いでいるのだ。

 これを受け、宋永吉委員長は自身の「フェイスブック」上で、「私(宋永吉)が核を容認するかのような卑怯な編集をした」とメディアの報道を批判した。

 また、上記発言については、「NPT(核拡散防止条約)が安保理常任理事国(米国、ロシア、中国、イギリス、フランス)の核保有既得権の維持を容認している中で、他の国(北朝鮮)の核保有に反対することは不平等である」という趣旨だと説明した。

長年南北交流を推進してきた宋永吉氏

 実は宋永吉氏は「共に民主党」の中でも親北派で知られており、党内の「韓半島タスクフォース」にも所属している。

 宋永吉氏は2000年に金大中政権時の与党「新千年民主党」(「共に民主党」と同じ系統)の推薦を受けて出馬して当選し、政界入りした。以来、国会議員(2000年〜2010年、2016年〜現在)や仁川市長(2010年〜2014年)を務め、2017年に文在寅政権が誕生して以降も重要なポストを担ってきた。

 2010年に仁川市長に就任した直後には「南北関係の改善のために両国の交流協力事業を直ちに再推進する計画がある」と明かすなど、政治家としてたびたび南北交流の重要性を主張してきた。

 市長を務めた当時は、北朝鮮に強硬姿勢を示していた李明博政権(2008年〜2013年)。宋永吉氏は「金大中・盧武鉉政権の南北政策による交流が李明博政権ですべて詰まった」と批判し、「このような状況が続けば、南北間の和解と交流、平和と統一をもたらすことができない」と繰り返し訴えてきた。結果、当時の政府の反対を押し切り、仁川市独自で南北交流や北朝鮮への人道支援を行うなど、北朝鮮との対話に尽力してきた経歴を持つ。

 今年6月に南北間の火種となった韓国の民間団体が長年行っている「北朝鮮批判ビラ散布」については、10年以上前から「ビラ散布は自制すべき」と問題視している

「北朝鮮のスポークスマンか?」対北融和路線に批判の声

 一方で、宋永吉氏の対北姿勢に対しては国内から非難もある。

 今年7月3日、韓国最大紙『朝鮮日報』は社説で、宋永吉氏を糾弾する記事を掲載した。宋永吉氏が1980年代に総学生会長や労働運動を行ってきたことを紹介し、「当時身に付けた反米運動レベルの知識と見方によって国会外交統一委員長となり、在韓米軍削減といった重大な安保問題を裁断しているのではないか」とその職務能力を疑問視している。

 批判の的となったのは、宋永吉氏が同1日に口にした「在韓米軍は韓米同盟における軍事力の過剰(over capacity)ではないか」という発言。社説ではこの発言を「在韓米軍は必要以上に多いため削減すべき」と解釈し、むしろ「今は在韓米軍の過剰ではなく不足を心配すべき状況である」と指摘した。

 これ以外にも、社説では宋永吉氏が2016年に北朝鮮による高角ミサイル攻撃を防ぐ在韓米軍の「THAAD(終末高高度防衛)ミサイル」配備に反対したことや、今年6月に北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆薬で爆破した際、「大砲で爆破しなかっただけよかった」と発言したことも問題点としてあげ、非難を加えている。

 このように宋永吉氏の北朝鮮関連の発言は物議を醸すことがあり、これ以外でも韓国内からは「どこの国のスポークスマンなのか」という声がたびたび寄せられている。

 2010年の延坪島砲撃事件の際も、宋永吉氏がツイッターで「最初の北朝鮮の砲撃を受け、韓国側が強く対応したため北朝鮮による集中攻撃を招いた」という趣旨の文章を掲載したことで、国内から強い反発を受けたことがある。
 

北朝鮮の真意を深く理解している

 ただ、宋永吉氏の発言は韓国国民を刺激しがちではあるかもしれないが、北朝鮮の真意を正確に読み取っている

 前述の非核化や在韓米軍などの諸事項は北朝鮮が重視している分野であり、北朝鮮側も同趣旨のメッセージを出している。

 宋永吉氏は南北交流を推進するため、「何をすれば北朝鮮指導部が嫌がるか。北朝鮮の真意はどこにあるか」を熟知しており、南北対話に必要な環境整備に力を注いでいると言える。

 もちろん南北対話のためには停滞する米朝交渉を進める必要があり、冒頭の発言も米国に譲歩を求めたものだと解釈できる。

 今年11月には、宋永吉氏は「共に民主党」内の韓半島タスクフォースメンバーとして訪米して、ビーガン国務省副長官と面会。米朝対話を進展させるため、「次期バイデン政権もドナルド・トランプ政権の対北朝鮮政策を継承しなければならない」と訴えている。

 文在寅政権が米朝・南北対話を目指す中において、今後も宋永吉氏の役割は大きくなっていくとみられる。

八島 有佑

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA