軍事パレードで国家保衛省が登場
平壌で4月25日夜、朝鮮人民革命軍の創設90周年に合わせて閲兵式(軍事パレード)が行われた。
26日には朝鮮中央放送が、編集したパレードの映像を放送している。
パレードでは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」などの新型兵器が公開されたほか、武器を持った兵士らの行進も行われた。
その中に、秘密警察である国家保衛省とみられる一団があった。
組織の性質上、国家保衛省の所属メンバーの姿が外部に出されることはほとんどない。国家保衛省のメンバーの映像や写真が公開されたとなれば、きわめて異例な出来事である。
軍事パレードで黒スーツの集団が登場
26日の労働新聞に掲載されたパレードの行進リストに国家保衛省縦隊の名前があった。朝鮮中央放送の映像を見ると、労農赤衛軍縦隊に続いて、約300人からなる黒スーツの一団があり、その後、女性交通安全員縦隊が行進している。
リストの順番と照らし合わせると、この黒スーツの一団が、国家保衛省縦隊とみられる。連隊旗は赤色の無地で、国家保衛省のロゴなどは確認できない。黒スーツ、黒ネクタイに、手には銃を持っている。
その後に白を基調とした制服の女性交通安全員縦隊が続くため、見ている人に強いインパクトを与える構成であった。
労働新聞では、「革命武力の一翼を担う精鋭部隊の威容をとどろかす国家保衛省縦隊」と紹介されている。
国家保衛省は危険分子を調査
国家保衛省は、秘密警察とされる情報機関。2016年に国家安全保衛部から国家保衛省に改称した。
北朝鮮には、情報部門とされる組織が複数ある。朝鮮人民軍に属する偵察総局などが存在するが、いずれも実態はよくわかっていない。
ただ、国家保衛省が、国内の危険分子の調査にあたっていることは確かなようだ。
2017年5月、国家保衛省の代弁人が、「CIA(米国中央情報局)と国家情報院(韓国)による最高首脳部への国家テロを企てた一派を摘発した」との声明を発表したことがあった。
声明によると、CIAと共謀した国家情報院が、北朝鮮人民を買収してテロを計画したと指摘。
これ以外でも、米国と韓国が対北工作活動を行なっているとして、「CIAと国家情報院のテロ一派を最後の1人まで探し出して処断する」というメッセージを送った。
また、2013年に金正恩(キム・ジョンウン)氏の叔父である張成沢(チャン・ソンテク)氏が、「国家転覆陰謀行為」で死刑となった。
この時、開かれた裁判は、国家保衛省前身の国家安全保衛部の特別軍事裁判。張氏は反党・反革命分派行為を行なったとして、裁かれることとなった。
反社会主義行為への警告か
このように、国家保衛省は、国家の秩序維持のための情報収集や危険分子の摘発を行う機関と考えてよいだろう。
役割としては、米国のCIA、韓国の国家情報院、ロシアの対外情報庁(SVR)などと同じような分類になるが、実態はよくわからない。
では、今回の軍事パレードで、国家保衛省のメンバーを登場させ、国内外に披露したのはなぜだろうか。
もちろん、任務に影響が出ない者を選んだとは思うが、国家保衛省所属とされる一団が軍事パレードに登場すること自体、異例である。
これには、正恩氏が昨今、反社会主義行為を問題視していることが影響した可能性もある。
国家保衛省の存在をオープンにすることで、一般の人民には安心感を、反乱分子には恐怖心を与えたという見方もできる。
また、前述のように、米国や韓国による対北工作活動をけん制する効果もあっただろう。軍事パレードで登場した新型兵器と同じくらい、目を引く出来事となった。
八島 有佑
@yashiima