物別れに終わったトランプ大統領と金正恩党委員長によるハノイ会談

物別れに終わったトランプ大統領と金正恩党委員長によるハノイ会談

物別れに終わったトランプ大統領と金正恩党委員長によるハノイ会談

 2回目となる米朝首脳会談が2月27日および28日にベトナム・ハノイで行われた。

 会談前には何らかの形で合意にいたるだろうとする見方も多く、トランプ大統領も「素晴らしい会談になる」と口にしていた。

 さらに、北朝鮮側も、国営メディアである『朝鮮中央通信』が、金正恩党委員長が同日ベトナムのハノイに到着したことを詳細に報じるなどしており、会談に対する強い期待感を示していた。
 
 だが、結果は物別れとなり、米朝間の認識の隔たりの大きさが改めて示される形となった。

 朝鮮中央通信は3月1日の報道で、「引き続き朝鮮半島の非核化と朝米関係改善に向けた建設的な議論を続けることで合意した」とだけ伝えるなど、3月7日現在、合意締結にいたらなかった事実に触れている北メディアはない。

朝鮮中央放送は米朝首脳会談をどのように報道したか?

 同じく国営放送の『朝鮮中央放送』も2月28日の会談後、合意に至らなかったことには触れないまま、次のように報道している。

〇(米朝両首脳は)会談において、シンガポールでの朝米共同声明を履行するための歴史的な路程において注目すべき前進が遂げられたことを高く評価し、それに基づいて、朝米関係改善の新たな時代を切り開いていく上で提起される実践的な諸問題について、建設的かつ虚心坦懐な意見交換を行った。

〇(米朝両首脳は)70年余りの敵対関係の中で積み重なった反目と対決の障壁が高く、朝米関係の新たな歴史を切り開いていく過程において避けられない難関と曲折はあるが、互いに手を固く握り、知恵と忍耐を発揮してともに克服するならば、北米関係を画期的に発展させていくことができるとの確信を表明した。

〇(米朝両首脳は)2回目となるハノイでの対面が双方に対する尊敬と信頼をさらに厚くし、両国関係を新たな段階へと飛躍させることのできる契機になったと評価した。

〇(米朝両首脳は)朝鮮半島の非核化と朝米関係の画期的な発展のために今後も連携を密にし、ハノイ首脳会談で論議された問題の解決のために生産的な対話を続けていくことを決めた。

〇敬愛する最高領導者(金正恩党委員長)同志は、トランプ大統領が遠路を往来して今回の会談の成果のために積極的な努力を傾けたことに対して謝意を表明し、再び対面することを約束して惜別の挨拶を交わした。

 このように朝鮮中央放送は、今回の会談を肯定的、前向きに捉えており、トランプ大統領に対する不満や批判は表明していない。

 北朝鮮側には引き続き米国との交渉を継続する意思があることの表れであると考えて良いだろう。

アメリカ・北朝鮮間の認識の隔たり

 ただ、米朝間で認識に隔たりがあることは会談後さらに浮き彫りになっている。

 例えば、トランプ米大統領が会談後、「北朝鮮が制裁の全面解除を求めたため合意できなかった」とコメントしたのに対し、北朝鮮の李容浩外相がすぐさま異例とも言える会見を開き、「要求したのは、全面的な制裁解除ではなく一部解除であった。(要請したのは11項目ある国連制裁のうち)2016年から17年までに採択された国連制裁5項目で、民間経済と人民の生活に支障を与えるものである」と反論している。

 この食い違いは、北朝鮮にとっては国連制裁の一部であるが、米国にとっては制裁の根幹であるこれら5項目の制裁を解除することは実質的な全面解除につながるという認識の差により生じているとみられる。

 その他、李容浩外相は前述の記者会見で、段階行動の原則を堅持し、非核化措置に関する北朝鮮側の方針は揺らがない旨を述べるなど、米朝間に隔たりが小さくないことを公にしている。

どうなる米朝交渉?

 北朝鮮としては米国との交渉にいまだ強い期待を持っているものの、米朝間で新たな合意に至るためには米国側の譲歩が前提であるとの方針を持っていると考えられる。

 そのため、北朝鮮側は今後どのように非核化措置に取り組むか、米国側はこれに対して制裁解除などを含めどのような見返り措置を講じるか、両国間の落としどころを見つけるまでにはなお時間が必要とみられる。

 ただ、少なくとも北朝鮮も米国も、2017年ころのように互いを非難罵倒するわけではなく、今後も対話のテーブルにつくことを明言していることから、米朝交渉について現時点でそれほど悲観することはないと言える。

 米朝交渉が「決裂」となるかどうかを判断するためには今後の動向に注目しなければならない。

八島有佑

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