10年前の水準へ戻った中朝貿易総額

10年前の水準へ戻った中朝貿易総額

中国海関(税関)統計による推移グラフ(単位:千平ドル)

10年前の水準へ戻った中朝貿易総額

 1月に発表された中国の貿易統計によると、2018年の北朝鮮の対中輸出額は約2億1315万ドル(約227億円、前年比87.7%減)、対中輸入額は約22億2000万ドル(約2340億円、前年比31.7%減)となっており、北朝鮮の対中貿易赤字は過去最大となっている。

 また、中朝貿易の総額は24億3000万ドル(約2571億円、前年比51.2%減)となっており、2007年から2009年の水準にまで落ち込んでいる。

 貿易統計を分析すると、これまで主要な輸出品目であった石炭、鉄鉱石、海産物、繊維製品などが国連制裁の禁輸対象品目であるとして公式な取引上から消えている。

 代わりに、タングステンや時計などの禁輸対象外品目の割合が増加しているものの、禁輸対象品目の損失分を取り戻すにはいたっていない。

 また、同様に主要な輸入品目であった鉄鋼、亜鉛等の金属、機械類、電気機器についても、2017年12月に採択された国連制裁(2397号)で禁輸対象となったために取引量が減少している。

北朝鮮の対外貿易の90%超を占める中国

 2018年の中朝貿易収支が悪化したことは、李魁文報道官が今年1月に「中国は、安保理の関連決議を包括的、正確、真剣かつ厳格に一貫して実施している」と述べている通り、中国が国連安保理の対北制裁決議を厳格に取り組んだ結果と言えよう。

 北朝鮮にとって、中朝貿易の停滞はそのまま北朝鮮の対外貿易の停滞を意味する。

 なぜなら、中国は北朝鮮にとって対外貿易の90%超を占める最大貿易相手国であり、これに続く2位のロシア、3位のインドとは比較にならないくらい中国の割合が大きいからだ。

 このことから、かねてより「国連安保理の対北制裁の実効性は、中国が厳格に制裁措置に取り組むかどうかにかかっている」と言われてきたのである。

対北朝鮮制裁に消極的だった中国が制裁へ本腰を入れたターニングポイントは17-18年

 中国は長年、国連安保理の対北制裁決議に取り組むことには消極的であった。

 2006年に北朝鮮が核実験を行って以降中朝関係が悪化しているとされながらも、中国は北朝鮮との貿易を継続してきた。

 状況が変わったのは2017年から2018年にかけてである。

 2017年に北朝鮮が相次いで核実験およびミサイル発射実験を行ったことを背景に、中朝関係は著しく悪化し、その結果、中国は、国連安保理の制裁決議に基づいて対北貿易を大きく制限するにいたった。

 現在、北朝鮮の為替レートや燃料価格は、ほぼ安定的に推移し、北朝鮮経済にも大きな混乱は報告されていないが、中国が厳格に制裁に取り組み続ければ北朝鮮市場にもやがてその兆候が現れるだろう。

 また、北朝鮮の外貨獲得手段でもある中朝貿易が低迷していることは、北朝鮮の保有外貨量にも大きな影響をおよぼしていると考えられる。制裁が解除されなければ北朝鮮は早急に新たな外貨獲得手段を見つけなければいけない状況にある。

 今年2月のハノイ会談で北朝鮮が米国と対立してでも一部制裁解除を要求したことは、制裁による影響が大きいことの表れとも言える。
 

今後の対北制裁措置はどうなる?中朝関係に注目

今後の対北制裁措置はどうなる?中朝関係に注目

地球儀で見る中国大陸と朝鮮半島

今後の対北制裁措置はどうなる?中朝関係に注目

 ここで気になるのは、中朝関係と制裁履行のバランスである。

 2018年に中朝首脳会談が3回行われるなど中朝関係は急激に緊密化しているが、前述のとおり貿易統計上は中国の制裁への取組姿勢に変化は見られないという状況にある。

 一見すると、中国は、中朝関係と制裁履行は別問題と考えているように見える。

 ただ、この貿易統計が実態をどの程度正確に反映しているかについては十分検証する必要があるだろう。

 統計値に実態が反映されていない物流が存在する、もしくは統計に意図的な操作が加えられている可能性も否定できない。

 実際、統計に表れない「背取り」(海洋上において船から船へ船荷を積み替える密輸)が行われていることも指摘されている。さらに、米朝交渉が膠着(こうちゃく)して制裁が継続されれば、中朝関係の改善が進む中で中国の対北制裁措置が緩む可能性も否定できない。

 いずれにせよ、現在、米国と貿易摩擦で対立している中国は、米朝交渉および半島情勢におけるキープレイヤーとして存在感を増していくことは間違いない。

 米朝交渉が進展してもしなくても、北朝鮮は中露と経済面、政治面において関係を強化していくだろう。

 近く行われるであろう5回目となる中朝首脳会談をはじめ、今後も中朝関係の動向に注目していきたい。

八島有佑

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