金与正第1副部長が談話でトランプ大統領の親書に言及

金与正第1副部長が談話でトランプ大統領の親書に言及

2018年4月板門店会談に同席する金与正氏(提供「コリアメディア」)

 「朝鮮中央通信」は3月22日、金正恩委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の談話を発表し、金正恩委員長がトランプ米大統領から親書を受け取ったことを明らかにした。

 談話によると、トランプ大統領は親書の中で米朝関係を推進する計画を伝えるとともに、北朝鮮の新型コロナウイルス対策に協力する意向を示したとのことである。

 これを受け、金正恩委員長が「トランプ大統領の特別な個人的親交について再確認し、大統領の温かい親書に謝意を表した」ことも伝えている。

 注目すべきなのは金与正副部長が「個人の意見」と前置きして自身の見解を伝えていることである。

 金与正副部長は、「2国間関係と(米朝)対話は、均衡が動的かつ道徳的に保たれ、公正さが確保された場合にのみ考えることができる」と強調し、「両国の関係が両首脳(金正恩委員長とトランプ大統領)の関係と同じくらいよくなる日になることを期待しているが、それが可能かどうかは時間に任せて見守るべきだろう」と指摘した。

 両国首脳の親書のやり取りを伝える談話の中で個人的見解に言及できたのは金与正副部長ならではと言える。

極めて異例な金与正副部長の談話発表

 金与正副部長は、3月3日に初めて自身の名義で談話を発表しており、「(韓国)大統領府の低能な思考には驚愕する」と韓国大統領を強く批判した。

 今回の米国に向けた談話はこれに次いで金与正名義による2回目の談話となる。

 通例では、米国に向けた談話は北朝鮮外務省が、韓国に向けた談話は祖国平和統一委員会が発表するため、金与正副部長が3月に2つも談話を出したことは異例である。

 では「なぜ今回金与正名義で談話を出したのか?」という疑問が生じるが、今回、金与正副部長が談話を発表した背景には金正恩委員長の考えを明確かつ強調して伝えることが目的であったのではないかと思料される。

 もちろんどこが出した談話であっても金正恩委員長の承認を得ているのだが、外務省談話などに比べて金正恩委員長の実妹である金与正副部長の談話はそれだけで影響力、発信力がある。

 そのほか「ここまで踏み込んだ内容の談話を出せるのは実妹である金与正副部長にしかできない」とも指摘されており、実際、「個人の意見」を談話の中でそえることができるのは党幹部の中でも金与正副部長くらいだろう。

 ただそう考えたとしても、「第1副部長」という立場で談話することは非常に異例であり、金与正副部長の立場や職責に変化があったことがうかがわれる。

金与正党第1副部長の所属はいまだ不明。今後金正恩委員長のメッセンジャーを担う可能性も

金与正党第1副部長の所属はいまだ不明。今後金正恩委員長のメッセンジャーを担う可能性も

2019年6月金大中元大統領夫人死去に際し代表して韓国側に弔辞を送った金与正氏(提供「コリアメディア」)

 党の部署ごとに「副部長」のポストがある中で、実は金与正氏が現在どこの部署の第1副部長なのか明らかになっていない。
 金与正副部長は、昨年12月末の党中央委員会第7期第5回全員会議で第1副部長に就任したものの、所属などはその後も不明なままである。

 今回の2つの談話でも「金与正第1副部長」としか記載がなく、所属は判明しなかった。

 以前と同様に「党宣伝扇動部」を務めているか、もしくは、さらに上位の部署とされる「党組織指導部」に異動した可能性があるが、いずれの部署であっても米国や韓国に関連した談話を発表することは通常あり得ない。

北朝鮮は所管業務が各部署できっちり分担されており、これらの部署は米韓への談話を発表するところではなく「越権」となるからだ。

 そのように考えると、金与正副部長は金正恩委員長の対外メッセージを伝える「報道官」のような役割も別に担っている可能性もある。

国家元首の立場を高めるための硬軟織り交ぜる役割分担か

 たとえば、金与正副部長が3月3日に韓国を強く非難する談話を発表した直後、金正恩委員長が文在寅大統領に親書を送ったことが明らかになっている。金正恩委員長は、新型コロナウイルスで混乱する韓国に対して、「必ず勝ち抜くと信じている」と温かい言葉を送っており、これは国家元首という立場でのメッセージと言える。

 このことを考えると、国家元首としての役割は従来どおり金正恩委員長が担い、外交的なメッセージを送る報道官の役割は金与正副部長が今後担うのではないかとも考えられる。

 金与正副部長の談話は、まだ2つだけなので今後の状況をもとに分析を進める必要があるが、少なくとも金与正副部長が他の党幹部と比べ一線を画していることは間違いない。

八島 有佑

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