防衛省が2020年版防衛白書を発表。北朝鮮や中国が反発

防衛省が2020年版防衛白書を発表。北朝鮮や中国が反発

防衛省市ヶ谷庁舎

防衛省が2020年版防衛白書を発表。北朝鮮や中国が反発

 7月14日、防衛省は2020年版『防衛白書』を発表した。

 毎年刊行されている防衛白書は、防衛省の防衛政策や近隣諸国への認識を理解できる資料として知られる。

 同時に、日本政府としての公式的な立場を内外に伝える場でもあるのだが、昨年と同様に北朝鮮や中国から内容について非難が寄せられることとなった。

 実は2019年版と比べても今年の防衛白書は、北朝鮮や中国の軍事動向に関する記述がかなり詳細になっている。

 7月14日に行われた白書発表の記者会見上、河野太郎大臣は、中国と北朝鮮の軍事拡大を指摘した上で、「国民の皆さまに今、日本の領土、領海で何が起きているのか、しっかりご理解をいただけるようにしていきたい」と呼びかけた。

 では日本政府が伝えたい北朝鮮と中国の現況とはいかなるものなのだろうか。

北朝鮮側は防衛白書を「ミサイル脅威のでっちあげ」と非難

 まず北朝鮮の非難内容から見ていきたい。

 2020年版防衛白書が発表されると、これを受けて北朝鮮国営メディア「朝鮮中央通信」は外務省報道官の発言を掲載した。

 報道官は、「我々の核保有に対してどうこう雑言を並べ立て、 隣国たちへの新たな挑戦となると言いがかりをつけている」、「今まで安倍政権が機会あるたびに我々の『ミサイル脅威』をけん伝して日本社会に恐怖心を植えつけ、自らの陰険な政治的・軍事的目的の実現に利用してきた悪習を相変わらず捨てられずにいる」と非難している。

 つまり、「日本政府が北朝鮮のミサイルの脅威をでっちあげ、政策の実現に利用している」というのが北朝鮮の主張だ。

 では日本政府が防衛白書で主張する「ミサイルの脅威」とはどういったものなのか。

「北朝鮮は日本を核攻撃する能力をすでに保有」と指摘

 約500ページにおよぶ防衛白書のうち、北朝鮮について20ページを割いて紹介されている(白書第1部2章2節)。その大半は北朝鮮が保有するミサイルの性能などの記述であり、図表などを用いて詳述されている。

 防衛白書では特に、弾道ミサイルに核兵器を搭載して攻撃するにあたって必要な「技術」を北朝鮮が獲得しているのかに注目している。

 この技術とは具体的に、(1)核兵器をミサイルの弾頭として搭載可能な程度に小型、軽量化する技術、(2)「大気圏再突入技術」(大気圏外に出たミサイルが大気圏に再突入しても搭載した核爆弾を正常に作動させる技術)の2つである。

 これは核弾頭ミサイルを実用化するにあたって必要不可欠な技術となり、獲得には高い水準の技術力が必要とされている。

 日本政府(防衛省)は、「北朝鮮はこの2つの技術をすでに獲得している」と分析し、その上で「弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国(日本)を攻撃する能力をすでに保有しているとみられる」と明言した。

 これまでも防衛白書では、「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」(2018年版)、「核兵器の小型化・弾頭化を実現させている」(2019年版)と警戒心を示していたが、日本への攻撃能力にまで言及したのは今回が初めてである。

 この記述はすなわち、「日本が北朝鮮から攻撃を受ける可能性がある」ことを示していると言え、この辺りの記述が北朝鮮からの非難につながっている。

 例え米国などが日本を射程圏内に捉えるミサイルをいくつ保有していたところで、それをもって「日本を攻撃可能である」などとわざわざ記述しない。結局のところ、「北朝鮮が日本を攻撃するかもしれない」という危険意識があるからこその言い回しと言える。

 北朝鮮は、今回の防衛白書に限らず、このような日本側の姿勢を「我が国(北朝鮮)に対する敵視政策」と繰り返し批判しているのである。

 だが、日本の姿勢は明確で一貫しており、北朝鮮からの批判を突っぱねている。今回も防衛白書で「(北朝鮮の核・ミサイルは)わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域および国際社会の平和と安全を著しく損うものとして断じて容認できない」と非難した。

 その上で、「米韓との連携が必要である」と主張するなど北朝鮮への警戒心を緩めていない。
 

「中国が尖閣で執拗に活動」と非難

 次に中国に関する記述である。

 中国に関しては28ページを割いており、北朝鮮よりも分量を割いて紹介されている(白書第1部2章2節)。中国の国防政策や軍事能力、日本海や南シナ海での活動などが詳述されており、中国への警戒心の強さが伝わってくる。

 尖閣諸島をめぐる問題について、「わが国固有の領土である尖閣諸島周辺においては、中国公船がほぼ毎日接続水域において確認」されているとした。

 その上で、「中国は、尖閣諸島周辺において力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続しており、強く懸念される状況となっている。事態をエスカレートさせる中国の行動は、わが国としてまったく容認できるものではない」と強く非難している。

 これまでの防衛白書でも中国の尖閣諸島への侵入について言及していたが、「執拗に」という言葉を使用したのは今回が初めてである。

 なお、2019年中に尖閣諸島周辺の接続水域で確認された中国公船の活動については、「活動日数282日、活動公船数が延べ1097隻」となり、いずれも過去最多であることを明らかにしている。

中国の宣伝工作「偽情報の流布」を指摘

 また、防衛白書では、新型コロナに乗じて中国が力を強めていることに警戒心を示している。

 中国が、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により国際的な協調・連携が必要な中、東シナ海においては、力を背景とした一方的な現状変更の試みを継続」と指摘。

 さらに、「中国などは、感染が拡大している国々に対する医療専門家の派遣や医療物資の提供を積極的に行うとともに、感染拡大にともなう社会不安や混乱を契機とした偽情報の流布を含む様々な宣伝工作なども行っていると指摘される」と一歩踏み込んだ言及となっている。

 「偽情報」の一節は外国メディアも注目して報じている。

 防衛省当局者は外国メディアの質問に対し、(1)「新型コロナウイルスは米軍関係者によって武漢に持ち込まれた」、(2)「漢方薬が新型コロナウイルス感染の治療に効果がある」といった中国発信の誤情報がこの偽情報に含まれると明かしている。

中国「白書ではなく黒い資料」と反論

 これらの防衛白書における記述に対して、中国外務省報道官は7月14日に非難をおこなっている。

 その内容は、「『白書』と言うが実際には『黒い資料』だ。日本の一部勢力の悪意があらわとなっている」、「日本の防衛白書は偏見と偽情報に満ち、中国の脅威をやたらとあおり立てている」というものである。

 つまり、「防衛白書の内容はまったくの偽である」というのが中国の主張だ。

 一方、河野太郎防衛大臣は7月17日の記者会見で、記者から「中国外務省報道官による非難をどう受け止めるか」と尋ねられたが、「いちいちコメントする必要はないと思います」と答えている。

 中国の非難に取り合わず、強固な姿勢を示している。

 日本政府がここまで中国の脅威を強調したのは強い危機感のあらわれであり、防衛白書を通して国民とその理解を共有したいという日本政府の意向がうかがわれる。
 
 
防衛省『2020年版防衛白書
 
 

八島 有佑

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