2つの談話で韓国の終戦宣言提案に反応

2つの談話で韓国の終戦宣言提案に反応

国連総会演説で朝鮮戦争の終戦宣言を訴える文在寅大統領 出典 青瓦台公式サイト

 金与正(キム・ヨジョン)党副部長と李泰成(イ・テソン)外務次官は、韓国側が提案した朝鮮戦争の終戦宣言に対して否定的な見解を示した。朝鮮中央通信が9月24日、両人の談話を相次いで発表した。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は9月21日(米国時間)、国連総会の一般演説の中で、南北米3者または南北米中4者による朝鮮戦争の終戦宣言実現のために各国に協力を要請していたが、これに北朝鮮が反応した形だ。

 談話では現状での終戦宣言に否定的見解を示しつつ、金与正氏が韓国との対話に前向きな姿勢を見せるなど、現在の北朝鮮の対米・対南姿勢を読み取ることができる談話となった。

李泰成「終戦宣言は時期尚早」。米国の敵視政策撤回求める

 まず、李泰成氏は談話で、終戦宣言に「象徴的な意味がある」と認め、「平和保障システムの樹立へと進む上で取り組むべき問題」と終戦宣言の意義自体は否定していない。

 だが、米国の対朝鮮敵視政策が残っている限り、「終戦宣言は虚像にすぎない」と主張。「米国の敵視政策を隠蔽するための煙幕に誤って使われかねない」との懸念を示し、現状での終戦宣言を「時期尚早」と断じた。

 実はこのことは、北朝鮮は以前から主張している内容と変わりはない。すでに米朝交渉が停滞していた2019年11月、金明吉(キム・ミョンギル)巡回大使は、「米国が対朝鮮敵視政策を撤回するための根本的な解決策を提示せず、情勢変化によって一瞬で反故になり得る終戦宣言や連絡事務所開設のような副次的問題を使って我々を協議へと誘導できると打算しているなら問題解決の見込みはない」と述べている。

 北朝鮮の認識では、米国の敵視政策撤回および体制保証が前提であり、それがないまま終戦宣言という副次的問題に取りかかる意味はないのだ。

 このような意味で、李泰成外相は「米国の二重基準と敵視政策の撤回が朝鮮半島情勢の安定と平和保障において最優先」と主張し、敵視政策撤回を改めて訴えている。

金与正氏「興味深い提案」。韓国次第で対話も

 続いて発表された金与正の談話は、主に韓国に向けたメッセージとなった。金与正氏は「双方の敵対視を終わらせるという意味で、終戦宣言は興味深い提案で発想は良い」と評価した。一方で、終戦宣言には韓国の敵視政策撤回や関係修復といった条件が必須で、時期を見極める必要があるとも述べている。

 李泰成談話同様、終戦宣言の意義を認めつつ早期の実現には慎重な姿勢を示した。

 その上で金与正氏は、「今後、韓国が敵対行動を取らなければ、北南間で関係修復と発展に向けた建設的な議論を行う用意がある」と対話に前向きな姿勢を示した。

 金与正氏は、9月15日にも文在寅大統領が北朝鮮のミサイル発射を「挑発」と呼んだことを巡り談話を発表。「大統領まで相手の中傷に加勢するなら、やむを得ず対抗行動を取るしかなくなって北南関係は完全破壊へと突き進む」と非難しつつ、南北関係破綻は「我々は望んでいない」と表明していた。

 金与正氏が韓国との関係修復に期待する談話を相次いで発表していることは注目である。

北朝鮮も対話を慎重に模索か

 今回2つの談話で終戦宣言に消極的な見方を示した北朝鮮だが、それは現状での話である。

 金与正氏も李泰成氏も終戦宣言の意義自体は認めており、米国や韓国が敵視政策を撤回するなど状況が変化するまで「時期尚早」と主張しているだけである。

 今回の談話は、終戦宣言の意義を語るものではなく、むしろ「米国と韓国に敵対行動をとるな」というシンプルなメッセージを送るものであったとも言える。

 金与正氏は8月以降、米韓軍事演習や韓国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験への非難談話を発表しているものの、その非難のトーンはかなり抑制されている。北朝鮮側としても対話に向けて、慎重にメッセージを送っていると考えられる。

 今回の談話に対し、米韓がどのような行動を取るのか注目したい。
 

八島 有佑
@yashiima

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA