23年ぶりの大幅なマイナス

23年ぶりの大幅なマイナス

連日秋の農作物収穫を伝える労働新聞(提供 コリアメディア)

 今年7月30日に韓国中央銀行は、北朝鮮のGDPが2020年に4.5%減少したという推測を発表した。これは23年ぶりの大幅なマイナスだという。北朝鮮でも新型コロナウイルスの流入を警戒し、厳しい国境管理やロックダウンが行われているというから、その影響が出てしまったものと思われる。

 パンデミックにより世界的に経済が悪化している現在、成長率が上昇している国のほうがむしろ珍しい。北朝鮮のマイナス成長も当然…なのだが、それが「23年ぶり」というのが、なんとも解せない。

 2006年の核実験に対して、国連は北朝鮮への戦略物資輸出禁止などの制裁を発動。その後も弾道ミサイル発射などが繰り返され、制裁のも強化されていった。2010年代になると民需関連の物資も多くが禁輸対象となり、在外資産の凍結なども進められている。そんな厳しい経済制裁下で20年以上も成長率を維持できていたということに驚かされてしまう。

「苦難の行軍」以降は経済がV字回復

 韓国中央銀行は、北朝鮮の経済状況を詳しく調べて、毎年その経済成長率の推計を発表している。それを見ると、不況の年は幾度かあるのだが、今回の4.5%を超えるマイナス成長を記録したのは1度だけ。他にはこれを超えるような大きな落ち込みが見られない。

 北朝鮮では金正日(キム・ジョンイル)政権に移行した直後の1995年頃から大飢饉に見舞われ、約300万人と推定される餓死者が発生した。建国の英雄・金日成(キム・イルソン)が、満朝国境を移動しながら苦しい抗日戦を続けたことになぞらえて、「苦難の行軍」と呼ばれる最大の国難を経験した時期だった。飢饉が最も酷かった1997年には、GDPが6.5%も下落している

 しかし、その後は見事なV字回復を遂げた。南北雪解けムードのなか韓国企業の誘致などを積極的に行った結果、前世紀末には6%台のプラス成長を記録し、以後は毎年2~4%の安定した成長が続いた

 核開発疑惑で締めつけが厳しくなった2006年以降でも、それほど大きな落ち込みは見られない。マイナスの年でも1~2%の下落で踏み止まり、逆に3~4%もプラス成長した年もある。

 金正恩(キム・ジョンウン)体制になった2012年には、市場経済が拡大され、都市部には新興富裕層が増えている。また、経済制裁下でも隣接する中国やロシアからの物流をすべて取り締まることは難しかった。

石油精製品の輸入が9割減

 2017年11月、北朝鮮が新型大陸弾ミサイルの発射実験を強行したことに対して、米国は新たな制裁を国連安保理に提案。これが中国やロシアを含む15か国の全会一致で採択された。

 これにより石油精製品の輸入は年間50万バレル以下に制限され、約90%も削減されることになる。産業機械や運搬用車両の対北朝鮮輸出も全面禁止。また、北朝鮮製の食品や木材などを各国が輸入することも禁じられた。決議違反の密輸入に対する取り締まりも、これまでとは比べようない厳しいものになる。
 

経済制裁下でもプラス成長に転じていた

経済制裁下でもプラス成長に転じていた

9月24日付の労働新聞が掲載した清津バッグ工場(提供 コリアメディア)

 かつて日本も米国の対日石油禁輸措置に耐えきれずに、真珠湾の米太平洋艦隊基地を奇襲して戦争に突入。破滅への道を歩んでしまった。

 国連安保理決議も北朝鮮の息の根を止めるほどに厳しく、日本が対米戦争を採択した時と状況は同じだった。しかし、金正恩政権は、かつての日本よりは理性的で我慢強かったようである。自暴自棄になって戦争を仕掛けることなく自重した。

 経済制裁発動直後のGDPはマイナス4%台となり、飢餓にあえいだ90年代以来の大幅な下落を記録した。が、驚くなかれ、あれだけ厳しい経済制裁下でコロナのパンデミックが起こる直前には、経済成長率は回復基調でわずかながらプラスに転じていたのである。

 日本や韓国とは経済規模が違うので、経済成長率だけで単純に比較はできない。しかし、しぶとく一筋縄ではいかない感じが、経済成長率のグラフから見てとることができる。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。

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