韓国にとって河野氏や高市氏よりは…

韓国にとって河野氏や高市氏よりは…

岸田文雄外相(左)と尹炳世外相(2014年) 出典 U.S. Department of State [Public domain], via Wikimedia Commons

韓国にとって河野氏や高市氏よりは…

 9月29日の自民党総裁選挙で岸田文雄氏が新総裁に選出された。日本の次期総理大臣を決める選挙なだけにこの結果は、韓国でも大きく報じられている。

 選挙の対抗馬には、徴用工問題で韓国大使をどやしつけた河野太郎氏、首相に就任しても靖国神社を参拝すると公言している超タカ派の高市早苗氏などの顔ぶれが並んでいる。それらと比べれば、岸田氏は穏健派の宏池会に属し、協調性や対話を重視する穏やかな人物だ。

 日韓関係改善を模索する最近の韓国にとって、最良の結果ではないかと思うのだが。しかし、韓国側の反応を見ると、あまり歓迎されている感じではない…。

背後にいる“最強のラスボス”を警戒している

 過去の韓国大統領は、総裁選で日本の次期首相候補が確定したところで、コメントを発表し、友好ムードを演出したものだが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、今のところ沈黙したまま。韓国主要紙の論調も歓迎ムードとは程遠い。

 比較的反日傾向の少ない保守紙の中央日報でさえ、革新的な河野氏ではなく保守的な岸田氏を選んだのは、日本政治の後進性の現れとして「日韓関係に大きな変化は望めない」と断じている。

 韓国が岸田氏を警戒するのは、その背後に安倍晋三元首相がチラついているから。総裁選で岸田氏を後押ししているだけに、次期政権もその影響力を強く受けるだろうと予測する。

 安倍元首相と言えば、日本の歴代宰相の中でも韓国では、伊藤博文の次に嫌われているという。慰安婦問題や徴用工問題、自衛隊機のレーダー照射問題などなど近年に多発した日韓間の国際問題では、これまでの戦後日本のリーダーとは違って強い態度で韓国に臨んできた。韓国民からすれば“最強のラスボス”といったイメージがある。その影響下にある岸田氏を警戒するのは当然か。

日韓首脳会談で責められるのが怖い!?

 また、岸田氏は第2次安倍政権で外務大臣として入閣している。多くの日本人は忘れている人も多いのだが、韓国人には、この時の印象がいまだ強いようだ。

 2015年12月には、岸田外相と韓国前政権の尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官(外相)がソウルで会談し、慰安婦問題について話し合い、日本政府が10億円を拠出することで「最終的かつ不可逆的に解決した」とする日韓合意がなされたのである

 韓国世論は合意に猛反発。撤回を求める声が大きかった。文政権は最近になって「両国間の公式合意」とは認めているが、大統領就任当初は民意に迎合して、慰安婦財団を解散させるなど合意を無視した行動に出た前科がある。

 また、合意後も元慰安婦や支援団体は、日本政府を相手に賠償を求める訴訟を度々起こしている。司法の判断は、その都度にブレまくって最終的かつ不可逆的に解決したのかどうか…、怪しい状況に。

 岸田氏は外相時代に慰安婦合意に直接携わっただけに、「この状況をどう思っているのか?」「日韓首脳会談が実現すれば、合意の確実な実行を求めて責められるのではないか?」と、そのあたりが、岸田次期首相に対する韓国側の不安感や警戒心の主因なのもしれない。
 

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

One Comment

  1. 自民党のサポです。
    「その背後に安倍晋三元首相がチラついているから。総裁選で岸田氏を後押ししているだけに」とありますが、安倍氏
    が岸田総裁を後押ししていたという話はどこの情報ですか?高市氏を全面的に推していたはずですが。

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA