新型ICBM「火星17」の発射実験に成功と発表

新型ICBM「火星17」の発射実験に成功と発表

3月25日付の労働新聞が掲載した24日、新型ICBM発射実験に立ち会ったとされる金正恩総書記(提供 コリアメディア)

 朝鮮労働党機関紙・労働新聞は3月25日、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星17」の発射実験(24日実施)に成功したと大々的に発表した。

 発射実験に立ち会った金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、「米帝国主義との長期戦に向けて徹底的に準備していく」と述べ、ICBM発射や核実験などを示唆している。

 火星17は、2020年10月の軍事パレードで初めて登場し、2021年10月の国防発展展覧会「自衛2021」において、その名称が初めて公表された新型ICBMである。

 もし、完成が事実であれば、北朝鮮は世界最大級の移動式ICBMを手に入れたことになる。

北朝鮮のICBM発射は約4年半ぶり

 北朝鮮のICBM発射は、後述する「火星15」を発射した2017年11月以来となる。

 金正恩総書記は2018年4月に米朝交渉を見据え、ICBM発射と核実験のモラトリアム(一時停止)を宣言していたが、4年経ってこれを破棄した形だ。

 北朝鮮の発表では、24日の発射実験は、平壌国際空港から行われ「周辺国家の安全」を考慮し、山なりに打ち上げるロフテッド軌道でICBMを発射したとある。

 さらに、最高高度6248.5キロ・メートル、飛距離1090キロ・メートル、飛行時間4052秒(約67分)との実験データを公開し、「朝鮮東海(日本海の北朝鮮側呼称)の公海上の予定水域に正確に弾着した」と伝えている。

新型ICBMは世界の大都市を射程圏内に収める

 前モデルの火星15は、2017年11月29日に初めて発射実験が行われたもので、通常軌道であれば、1万キロ・メートル以上の射程だと推測されている。

 米国本土全域を射程圏内に収める可能性もあることから、米国に対して大きな脅威を与えることとなった。

 それでも、北朝鮮が火星17の完成を目指してきたのは、火星15を上回る怪物級とされるその性能に理由がある。

 2020年10月に初めて公開された火星17は、火星15より全長・直径が大型化。11軸22輪の新型移動式発射台(TEL)に搭載されており、世界最大級の移動式ICBMと言える。

 理論上では、射程は1万3000キロ・メートルを超え、米国全土はもちろん、ヨーロッパなどの世界の大都市のほとんどが射程圏内に入る計算になる。

 しかも、弾頭部分が大型化しており、複数の弾頭を搭載可能となれば、迎撃は非常に困難だ。

 日本政府が新型ICBM発射を受けて、「次元の異なる脅威」と表現したように、実用化可能であるならば、まさに怪物ICBMである。

「火星17発射は偽装」という指摘も

「火星17発射は偽装」という指摘も

新型ICBM火星17(提供 コリアメディア)

 一方で、「24日に発射されたミサイルは火星17ではなく、既存の火星15ではないか」という疑いが浮上している。

 韓国の聯合ニュースが3月27日、「韓米当局が新型ではなく、既存の火星15と結論付けた」と報じ、韓国国防省も29日、同様の見解を示したのだ。

 米国の偵察衛星などの収集データによると、今回発射されたICBMのエンジンノズル数が、火星17の4個ではなく、火星15の2個と同じであったことなどが、疑惑の根拠となっている。

 そうなると、北朝鮮の国営メディア各社が公開した映像や写真とは合致しないため、一部がフェイクだったことになる(北朝鮮の公開資料では、ノズル数が4個となっている)。

 たとえば、失敗したと指摘されている3月16日のミサイル実験は、火星17を発射したもので、この時の映像をつなぎ合わせて発表した可能性もあるのだ。

 ただ、「発表通り、北朝鮮は火星17の発射実験に成功している」とする専門家の見解も多数あり、現時点では、北朝鮮の発表がフェイクとも言い切れない。

 いずれにしても、北朝鮮は米国との“対決”を見据え、今後も軍事力強化を進めるものとみられ、核実験やICBMの発射実験のほか、偵察衛星開発の軌道投入などが予想される。

八島 有佑
@yashiima

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