トランプ大統領からの親書を読む金正恩委員長と報じた2019年6月23日付『労働新聞』(提供「コリアメディア」)

 バイデン氏が米大統領選の選挙人投票で勝利したことで、政権発足に向けた動きが本格化する。北朝鮮問題は「最初の100日」に行う予定には入っていないものの、準備は進めているようだ。

正恩氏の心理把握に有益

 意外なことにバイデン陣営は、金正恩朝鮮労働党委員長が、トランプ大統領に出していた「親書」に注目しているという。すでに全文をトランプ政権から入手したと報道されている。

 正恩氏は、トランプ氏だけでなく、韓国の文在寅大統領や中国の習近平国家主席にもたびたび書簡を出す親書好きだ。

 トランプ氏からの業務引継ぎを行っているバイデン陣営の関係者は「親書は金正恩の心理をより深く把握するのに役立ち、トランプ氏の心をつかんだか分かる」とメディアに語っている。

「親愛なる」の表現が正恩氏の心を開かせた?

 2人がやりとりした書簡の内容がまとまって公開されたのは、日本でもこの年末に発売された『RAGE(レイジ)怒り』(日本経済新聞社)という本を通してだ。米国のベテラン記者ウッドワード氏が、トランプ氏に繰り返しインタビューしてまとめた。

 2人の間の親書は計27通で、うち25通が本書で公開された。最初の親書は2018年、ポンペオCIA長官が空路で北朝鮮へ行った時に正恩氏に渡された。3パラグラフの短いものだが親書の冒頭に「親愛なる金委員長」とトランプ氏は書いた。「親愛なる」という親しみの表現は効果をあげたようだ

トランプ氏を「閣下」と呼んだ正恩氏

 この返事で金正恩氏は「親愛なる閣下」と表現し、最大限にへり下っていた。自分への攻撃的な発言を続けていたトランプに恐れを感じ、トランプの丁寧な言葉使いに心を揺れ動かされたのかもしれない。意外と礼儀にうるさい人なのかもしれない。

 さらに手紙は、「過去にだれも成し遂げることができなかった、全世界が予想もしていなかった偉業を達成するために努力する所存です」と続いていた。

 首脳会談はいったん中止され、外交当局の接触で実現が決まった。正恩氏は、5月29日の親書で首脳会談を「おおいに期待しています。全世界が注目する行事になります」と書いた。米国との取り引きを成功させ、世界の注目を浴びたいという願望が読み取れる

終戦宣言へのこだわり専門家受け入れには難色

 18年6月のシンガポールでの米朝首脳会談後、2人の親書のやりとりは、回数と親密さが増した。

 トランプ氏は、親書で「残りの米軍兵士の遺骨の返還。閉鎖を約束したミサイル施設に対する専門家による視察」を求めた。正恩氏は、返信でトランプ氏の指導力を賞賛したが、何も約束しなかった。専門家の訪朝には抵抗感があるのだろう。

(続く)

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

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