昨年1月25日を最後に姿消す

昨年1月25日を最後に姿消す

李雪主氏の最後と姿となっている2020年1月26日付の『労働新聞』(提供「コリアメディア」)

 北朝鮮のファーストレディ、李雪主(リ・ソルジュ)氏が、年始に相次いだ北朝鮮の重要行事に姿を見せず、韓国で様々な憶測を呼んでいる

 妊娠説、コロナ感染回避説、さらには夫との不仲説まで飛びかっている。北朝鮮では要人の消息がニュースになりだすと、当人が姿を現すことが多いため、「まもなく出てくる」と見方もある。

 公の場で李氏の姿が確認されたのは、平壌の三池淵劇場で行われた旧正月の記念公演だった。夫の金正恩(キム・ジョンウン)総書記とともに会場で観覧し、拍手する姿が報道された。これが昨年1月25日のこと。

 今年の新年に行われた朝鮮労働党大会や最高人民会議(国会に相当)、恒例の各種記念公演にも姿が見えなかった。これでかれこれ1年間、表に出てこないことになる

「4人目となる男児を出産」安燦一氏

 脱北者としてテレビにしばしば登場する世界北朝鮮研究センターの安燦一(アン・チャンイル)所長は1月19日、自分の「ユーチューブ」チャンネルで、李雪主氏が4人目の子どもを産んだという情報があると伝えた。

 韓国の情報機関、国家情報院によれば、金夫婦には1男2女の子どもがいることが確認されている。そのうち2番目の女の子が「ジュエ」という名前だ。訪朝した米プロバスケットボール協会(NBA)の元スター選手デニス・ロッドマン氏が、金夫婦から直接名前を聞いたと証言している。

 安氏は今回生まれたのは、男の子だと伝えた。

 金一家の専門病院である平壌の烽火診療所で、1月上旬に警備が厳しくなり、李雪主氏が出産したことが確認されたという。

「不仲で別居状態」康明道氏

 この情報を否定するのは、康明道(カン・ミョンド)氏だ。康氏は、北朝鮮の姜成山首相の婿にあたるエリート出身の脱北者である。

 彼は自分のユーチューブチャンネルで、「李雪主に出産説が出ているが、間違っている」と前置きしたあと、夫とは疎遠になっており、別居状態だと語った。

 北朝鮮の住民は、李雪主氏に好感を持っており、彼女に同情しているという。

 まったく対立する噂だが、少なくとも彼女の現状を懸念する声が、北朝鮮内で出ているのは間違いないようだ。

 これ以外に、新型コロナウイルスへの感染を恐れて外出を控えている噂もある。李氏は2016年にも9か月間姿を現さなかったが、このときも何の説明もなかった。

「長男は11歳で4世代世襲が現実味」姜哲煥氏

 一方、やはり著名な脱北者で、韓国の新聞、『朝鮮日報』記者だった姜哲煥氏は、2020年10月29日、自分のユーチューブチャンネルで、2009年に北朝鮮で「キム・リョンジュ(김령주)」という名前を使ってはならないという指示が出ていたことが分かったと明らかにした。

 このため、李雪主氏が男の子を産み、その名前がキム・リョンジュである可能性があると述べた。北朝鮮では、金ファミリーと同じ名前の使用を禁じることがあるからだ。

 09年生まれだとすると、今年11歳になる。このため姜氏は、「4代世襲が現実味を帯び始めた」と述べている。

 あくまで噂のレベルではあるものの、李雪主氏は金ファミリーの中心人物である。さらに不在が続けば、さらに憶測が広がるに違いない。
 

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

記事に関連のあるキーワード

おすすめの記事

こんな記事も読まれています

コメント・感想

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA