ウクライナ侵攻によって核議論が拡大

ウクライナ侵攻によって核議論が拡大

2月22日、米国カマス副大統領(右)と会談したウクライナのゼレンスキー大統領 出典 ゼレンスキー大統領公式ツイッター

 ロシアのウクライナ侵攻で被害が拡大していることを受け、「1994年のブダペスト覚書で、ウクライナが核を放棄していなければ、ロシアの侵攻はなかった」とする見解が出ている。

 日本でも核共有の議論が広がるなど、核の役割が再び問われているが、北朝鮮の核問題とも無関係ではない。

 北朝鮮は、米国を敵国と定め自衛力強化という名目で、核・ミサイル開発を進めてきた。「対軍事大国」という構図は、ウクライナ対ロシアと似ているものがある。

 北朝鮮としては、米国からの安全保障の見返りとして、非核化に応じたウクライナの今後の動向を注視し、今、対米戦略の教訓とするだろう。

 2018年の南北および米朝首脳会談で北朝鮮は、朝鮮半島の非核化に応じる姿勢を示していたが、現在、非核化協議は停滞している。

世界3位の核備蓄量になったウクライナ

 まずは、ウクライナの非核化までの経緯を知っておく必要がある。

 1991年に独立したウクライナには、旧ソ連の膨大な数の核弾頭などの兵器が残置されており、これをどのように扱うかが問題となった。

 独立当時、1000発以上の核弾頭や約200発のミサイルが存在したとされ、米国とロシアに次いで世界3位規模の備蓄量となった。しかし、核保有国が拡大することに国際社会では懸念が出ていた。

 この頃、ロシアと対立していたウクライナの国内では、「ロシアに対抗して核を保有すべき」という議論があった一方で、1986年のチェルノブイリ原発事故の深刻な被害を受け、核保有国となることには反対も多かった。

当時、核の管理運用は不可能であった

 その裏でウクライナは、核の保有や運用で技術的な問題を抱えていた。

 ウクライナには、ソ連の戦術核と戦略核が残置されていたが、戦術核は、早い時期にロシアが勝手に回収している。

 残されたのは、ロシアが運搬できなかった大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの戦略核であったが、その多くは旧式で、安全装置の有効期限が過ぎるなどの問題を抱えていた。

 これに加えて、当時のウクライナの技術や財政状況では、必要な保守管理を行って、核を運用することは、ほぼ不可能であった。

 つまり、ウクライナは、意図して保有したわけではないし、核を適切な管理下で維持、運用することもできなかったことから、厳密には核保有国とは言えない状況だったのだ。

1996年までにすべての核兵器を廃棄

 このような中、ウクライナは、非核化に向けて進むことになる。

 1992年、戦略兵器削減条約(START)の付属議定書であるリスボン議定書に調印。核をすべて放棄した上で、核不拡散条約(NPT)加盟することに合意した。

 1994年には、問題となっているブダペスト覚書を締結。核兵器を完全廃棄することを条件に米英ロが、ウクライナの安全保障を約束したのである。

 このような経緯でウクライナは、1996年までに、ロシアに核兵器を返還し、非核化を果たしている。

 ちなみに、同じくソ連時代の核兵器が残置されていたベラルーシやカザフスタンも核をロシアに引き渡している。

必要となる紛争解決のための仕組み

 ブダペスト覚書は、当事者に対して法的拘束力を課すものでない。これまでもロシアが合意を反故にしてきたことから、実効性について議論されてきた。

 ただ、ブダペスト覚書も実効性がないからといってまったく無意味でもない。

 覚書自体は、法的保障を与えるものではないが、米英ロとの合意文書としてウクライナの主張に正当性を付与しているからだ。

 ウクライナは、2005年のガス紛争や2014年のクリミア占領では、ロシアの合意違反を指摘し、覚書を根拠にして各国に支持を呼びかけている。

 今回のウクライナ侵攻でも、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、2月22日、米フォックス放送に出演し、ブダペスト覚書締結時に米国が約束した「安全保障」があったから、「ウクライナは世界3位規模の核戦力を放棄した」と発言。合意に基づいて米国が責務を果たすよう促した。

 とはいえ、現状においても米国など西側諸国が、ウクライナ侵攻を非難しつつも、軍事介入を控えていることを考えると、法的拘束力のある文書合意と紛争解決のための仕組みが必要なことは確かだ。

米国の裏切りを警戒

 さて、北朝鮮は、今回のウクライナ侵攻で対大国を見据えた核の役割と非核化に応じるための法的保障の必要性について教訓を得たはずだ。

 独立時のウクライナと異なり北朝鮮は、対米国という執念のもと長年の開発の末、核保有国となっている。

 「核を保有してさえしていれば、他国の侵略を受けない」という認識を踏まえると確固とした安全保障が得られないのであれば、北朝鮮が非核化に応じる可能性はないと言える。

 そのため、ブダペスト覚書と同じような合意方式であれば、北朝鮮は非核化には応じないだろう。

 今回、ウクライナがロシアに攻撃されたように、北朝鮮も米国などに裏切られ、周囲が放置する可能性があるからだ。

 北朝鮮がこれまで米国に体制保証などを求め米韓合同軍事演習などに反発してきたのは、米国の裏切りを警戒していることにほかならない。

 この点でウクライナ危機の経過や米国を含めた国際社会の今後の対応は、米朝非核化協議に大きく影響すると言える。

八島 有佑
@yashiima

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