米朝対話は停滞か?ポンペオ訪朝に対する北朝鮮外務省の非難談話

米朝対話は停滞か?ポンペオ訪朝に対する北朝鮮外務省の非難談話

 8月1日(現地時間)、米朝共同声明に基づいて朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨55柱が北朝鮮から米国に返還され、記念式典が行われた。

 6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談以降、米朝対話はこのように進展していると見える一方で、米朝間では依然として「非核化」の認識に隔たりがあるため米朝対話は停滞しているという声も多い。

 ポンペオ米国務長官は7月6日から7日まで訪朝し、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長と会談した。

 3回目となったポンペオ訪朝であるが、北朝鮮外務省はポンペオ国務長官が平壌を離れた後に談話を出し、米国の対北姿勢を厳しく非難した。

 『朝鮮中央通信』を通じて出された外務省談話では、「トランプ大統領と築いた親交関係が今後の対話を通じて、より強固なものになると期待していた」にもかかわらず、ポンペオ国務長官が「首脳会談の精神に反して、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的)を主張し、強盗的な非核化要求だけを持ち出した」と強く非難している。また、北朝鮮が米国の「強盗的な要求」を受け入れざるをえないと考えているのであれば、それは「まったく間違っている」と警告した。

 北朝鮮がシンガポール会談以降これほど米国を非難したのは初めてであり、北朝鮮にとってポンペオ国務長官の要求がいかに受け入れがたいものであったことを示している。

 金正恩党委員長が今回ポンペオ国務長官と会談しなかったことは、北朝鮮側の失望の表われだろう。

米国の「強盗的な要求」とは何だったのか?アメリカの余裕と北朝鮮の焦り

 一方で、ポンペオ氏は上記談話を出す直前、記者団に「建設的」な協議だったと述べている。

 米朝双方の発表には隔たりがあるように感じるが、米国としては「言うべきことを言った」という評価であり、北朝鮮からすれば「受け入れがたい一方的な要求(『強盗的な要求』)であった」という評価なのだろう。

 ただ、「一方的な要求」といっても、米国が「CVIDを受け入れなければ米朝対話を打ち切る」などと積極的に圧力を加えたわけではないとみている。

 米国がそのような要求をしたのであれば、北朝鮮側は談話で「米国が脅迫した」と強く主張するはずである。

 シンガポール会談以降のトランプ大統領の発言から考えても、米国がそのような圧力を加えるとは考えにくい。

 そこで、北朝鮮が上記談話で、「一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した」、「朝鮮半島の平和体制構築の問題については一切言及せず、すでに合意された終戦宣言問題まであれこれ条件と口実をつけて遠く先送りしようとする立場をとった」と非難していることを踏まえると、米国は、「北朝鮮がCVIDに基づいて非核化を行わなければ、平和体制や終戦宣言について協議することはできない」と突き放した可能性が高い。

 北朝鮮は、米朝共同声明や板門店宣言の内容を国内向けに発表してしまっているため、このまま何も得られずに米朝対話を打ち切ることはできかねる状況にある。

 米国は、北朝鮮のそのような事情をよく理解しており、「北朝鮮が自ら米朝対話を打ち切ることはない」という余裕がある。

 一方、北朝鮮は、国連制裁も解除されていない中で対話が長引けば長引くほど不利になる状況に置かれている。
 

北朝鮮の「非核化」意思の本気度と北朝鮮にとって非核化の最大の難点とは?

 北朝鮮が上記談話を発表したことにより、「やはり北朝鮮の『非核化』の意思は嘘である」などという懐疑論が再燃しているが、その判断は時期尚早であろう。

 北朝鮮にとって、CVIDに基づく「非核化」作業というのは簡単なことではない。

 「完全かつ検証可能で不可逆的」な作業を行うというのは、一国の軍事が国際社会に丸裸にされることを意味しており、党指導部が何の見返りもなくCVID受け入れれば、軍部からの反発は避けられない。

 北朝鮮が軍部の反発を抑えることに注意を払っていることは、朝鮮人民軍偵察総局で要職を務めた金英哲党副委員長が米朝対話及び南北対話の最前線に立っていることからもよく分かる。

 そのため、北朝鮮がCVIDに基づく非核化作業を拒む=非核化の意思がない、と結論付けることはできない。

 北朝鮮としては、米朝共同声明に「CVID」の文言が入ることを回避し、非核化は平和体制構築などとともに並行して進めることが決まったと安堵していたのに、今回ポンペオ国務長官がCVIDに基づく多岐に渡る作業を提示したために、「話が違う」と反発したのだろう。

「非核化」の検証作業は必要

 米朝首脳会談以降、共同声明の文言が入らなかったことについて、米国内外から「アメリカが譲歩した」という非難が相次いだが、今回北朝鮮が「強盗的」と非難する談話を発表したことは、米国政府が徹底した検証作業を行うために北朝鮮に詰め寄っている証といえる。

 北朝鮮が上記のように非核化を積極的に進められない事情があるからといって、検証作業を行わなくてよいというわけではない。むしろ、国際社会から寄せられる北朝鮮の非核化の意思を疑う声を抑え、国連制裁の解除に向かうためには、検証作業は避けられない。

 米朝両国はそのような互いの事情はよく理解している中で、現在ある種のジレンマに陥っているが、対話の道を閉ざそうとはしていない。

現在は米朝首脳同士でメッセージを送りあう期間。9月9日の北朝鮮の建国記念日へ向けて急展開も

 実際、北朝鮮は、上記談話では米国のやり方を非難しつつも、「我々はトランプ大統領に対する信頼をまだ保っている」と伝えている。

 また、非核化について思い通りに話が進まない中でも今回米兵の遺骨を返還したことは、「北朝鮮は米朝共同声明で約束されたことを着実に実行している」というメッセージとも取れる。

 トランプ大統領が遺骨返還を受け、自身のツイッターで、「金正恩党委員長が約束を守ったことに感謝する。近いうちに会えることを楽しみにしている」と述べたことについて、金正恩党委員長はどのように解釈しているのだろうか。

 米朝は、表面上、非核化を巡り膠着(こうちゃく)しているという声もあるが、両国首脳がメッセージを送りあう期間と考えると必ずしも米朝対話が停滞しているとは言えない。

 少なくとも、昨年まで片方がミサイルを発射して、片方が戦争をちらつかせて非難を浴びせるという負の応酬をしていたことを考えると、米朝関係は着実に進展している。

 北朝鮮にとって重要な記念日である9月9日の建国記念日まであと約1か月。米朝対話が急展開する可能性もあるため8月は米朝両国の動向に目が離せない。

八島有佑

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