輸出加工区を新設

輸出加工区を新設

茂山(ムサン)駅 出典 xue siyang(df45086) [Public domain], via Wikimedia Commons

輸出加工区を新設

 北朝鮮が新たに「茂山輸出加工区」を設置することがわかった。

 北朝鮮国営メディア・朝鮮中央通信などは4月29日、「最高人民会議常任委員会(国会に相当)が24日、咸鏡北道茂山郡に輸出加工区を設置する政令を採択した」と報じた。

 報道では「内閣と該当機関が同政令を執行するための実務的な対策を立てる」としたが、輸出加工区の具体的な計画などについては伝えられていない。

 輸出加工区が設置されるのは、中国と国境を接する茂山郡であることから、中国との委託加工貿易を促進する可能性がある。

輸出加工区は経済開発区の1つ

 今回設置が発表された輸出加工区は「経済開発区」の1つ。北朝鮮ではこれまで、2013年5月に最高人民会議常任委員会で採択された「経済開発区法」に基づき経済開発区を設置してきた。

 2013年だけで「恵山(ヘサン)経済開発区」や「興南(フンナム)工業開発区」など13の経済開発区が設置されている(現在は20か所以上の経済開発区が存在している)。

 経済開発区は経済建設の要となることが期待され、経済開発区への外貨投資の誘致活動も盛んに行われた。だが、その後、国連の対北朝鮮制裁が本格的に実施されるようになり、特区の運営や開発は現在中断もしくは、停滞しているとみられている。現在も国連制裁が維持されている中で、今回、北朝鮮が輸出加工区を設置した背景が注目される。

 また、北朝鮮は昨年1月以降、新型コロナウイルス対策として国境管理を徹底しており、4月30日時点では中朝貿易は全面再開には至っていない。今回の輸出加工区設置が中朝貿易とどのように連動するかにも注視したい。

中国企業誘致の可能性も

 経済開発区の中には工業開発区や観光開発区などがある。今回、設置される輸出加工区については、「臥牛島(ワウド)輸出加工区」や「松林(ソンニム)輸出加工区」などの前例がある。いずれも貿易志向型の加工・組立てが行われているとされ、今回の茂山輸出加工区も同様の稼働方法になると考えられる。

 また、中朝国境隣接地域に設置したことから、中国企業ブランドの製品を製造するいわゆるOEM(委託者ブランド名製造)が行われる可能性もある。国連制裁(2397号)により北朝鮮労働者が海外で就労できなくなったため、これまで北朝鮮労働者に頼ってきた中国企業の工場が移転することもありえる

茂山鉱山をはじめ世界でも有数の地下資源を持つ北朝鮮

 今回、輸出加工区に指定された咸鏡北道茂山郡には豊富な鉄鉱石を有する「茂山鉱山」がある。埋蔵量30億トン(推定)で、現時点での可採埋蔵量は13億トン以上とも言われている。北朝鮮ではもちろん、アジアの中でも有数の鉄鉱石埋蔵量であり、以前から中国との共同開発が進んでいた。

 ちなみに北朝鮮は、鉄鉱石以外にも鉱物資源が豊富で、マグネサイト (世界3位)、黒鉛(世界6位)など世界有数の埋蔵量を誇る。

 2018年に公表された韓国鉱物資源公社の資料では、北朝鮮の鉱物資源の市場価格は、2017年基準で約3795兆ウォン(約370兆円)規模となっている。そのため、北朝鮮の地下資源には中国や韓国をはじめ世界中から関心が寄せられているのだ。

 新たに設置される輸出加工区が茂山という特性をどのように生かすのかにも注目である。
 

八島 有佑

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