批判ビラへ金与正氏警告

批判ビラへ金与正氏警告

2018年2月10日に文在寅大統領と会談した金与正氏(提供 コリアメディア)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長(宣伝扇動部)は5月2日、韓国を強く非難する談話を発表した。

 非難談話は、韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」が4月30日、北朝鮮を非難するビラを散布したと発表したことに反応したものである。金与正氏は「それ相応の行動を検討する」と警告しており、文在寅(ムン・ジェイン)政権の対応が注目されている。

改正南北関係発展法施行も強行されたビラ散布

 自由北韓運動連合によると、同団体は4月25日から29日までの間に2回に分けて、金正恩総書記らを批判するビラ50万枚と小冊子500冊、1ドル札5000枚を大型風船に取り付けて北朝鮮に向けて散布したとのことである。

 これを受け、韓国統一部副報道官は30日の定例会見で、「改正南北関係発展法の趣旨に則って対処していく」と述べた。

 改正「南北関係発展法」は、南北軍事境界線一帯でのビラ散布行為などに対し、3年以下の懲役または罰金3000万ウォン(約290万円)を課すもの。昨年5月31日に同じく自由北韓運動連合がビラ散布を行なったことで南北関係が悪化したが、この件を機に制定されたものである。今年3月30日に同法が施行されているが、今回、同団体は罰則覚悟で強行した形である。

金与正氏「それ相応の行動を検討」

 さて、金与正談話の内容を見ていきたい。

 談話は、「先日、南朝鮮で『脱北者』なるくずの連中がまたもや、うろうろして反朝鮮ビラを散布する許せない挑発行為を働いた」という一文から始まっている。加えて、北朝鮮は「くずのような連中の妄動を黙認した南朝鮮当局の誤った行為が北南関係に及ぼす悪結果について厳重に警告したことがある」と述べており、昨年5月のビラ散布を想起させた。

 だが、韓国当局が再び、脱北者らの行動を放置して阻止しなかったとして、「非常に汚い行為に不決感を隠せない」と表明。「汚いくずの連中に対する統制を正しくしなかった南朝鮮当局が負うことになるであろう」と述べ、「それ相応の行動を検討する」と警告した。

 今回ビラ散布をした自由北韓運動連合は、対北ビラ散布計画を4月23日に公表していたが、それを阻止できなかった韓国当局の責任を追及した形である。

昨年の南北関係悪化も対北ビラ散布が契機に

 金与正氏は昨年のビラ散布直後も繰り返し談話を発表し、韓国政府がビラ散布を取り締まらなかったことなどを非難していた。結果、「韓国政府と決別するときがきた」として、昨年6月16日に「南北共同連絡事務所」を爆破した。

 ただ、その後、文在寅(ムン・ジェイン)政権は積極的にビラ散布禁止に動き出し、当時統一部長官であった金錬鉄(キム・ヨンチョル)氏が南北関係悪化の責任を取って辞任を表明するなど南北関係修復に向けて努力を重ねた。

 これら韓国側の姿勢を評価したのか、党中央軍事委員会は予告していた「対南軍事行動計画」の保留を決定した。その後は、関係が大きく好転することも悪化することなく現在に至っていた。
 

対韓軍事行動計画が再始動する可能性も

 この軍事行動計画は朝鮮人民軍総参謀部が提起したものである。計画には「金剛山観光地区と開城工業地区に連隊級舞台と火力区分部隊を展開」「軍事境界線付近での各種軍事訓練を展開」「軍事的に対南ビラ散布闘争を実施」などが含まれている。

 注意すべきは、昨年6月23日に党中央軍事委第7期第5回予備会議では同計画が保留されただけであることである。

 このとき金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長(当時)は談話で、「『保留』が『再考』になればよい結果は生じないだろう」と述べており、「韓国の対応次第では計画が再始動する可能性もある」という含みを持たせていたのである。

 その後、計画が撤回されたとの報道はない。

 今回、金与正談話が伝えている内容を踏まえると、この対韓軍事行動計画と同様、もしくは、同レベルの対抗措置が検討される可能性がある

 そのため、文在寅大統領は早急な対応を迫られている。昨年と同様対応が遅れれば、南北関係のさらなる悪化は避けられないからだ。

八島 有佑

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