南北・日韓関係の悪化の中で最後に選んだ業績作り?

南北・日韓関係の悪化の中で最後に選んだ業績作り?

韓国人の約8割が犬肉を食すことに反対しているという

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、今年9月27日の定例会見で犬肉食を禁じる法制定を検討するべきだという見解を示した。大統領は3頭の犬を飼う愛犬家なだけに、これを最後の業績として残したいのだろうか。

 南北融和や日本との関係修復と同様、哀れな犬たちを救うことが、まもなく任期を終える大統領にとって、解決するべき重要な政治課題になっているのかもしれない。

韓国人の約80%が犬肉食に反対している

 韓国では「補身湯」と呼ばれる犬肉のスープが、昔から滋養食として親しまれてきたという歴史がある。大統領の発言に対しは「伝統文化を冒頭している」と、批判する声も多い。しかし、実際のところ現代の韓国社会では、めったに見かけない食文化ではある

 ソウル五輪が開催された1980年代後半頃から、欧米諸国を中心に韓国の犬食文化への批判が強くなった。また、体裁を気にする国民性だけに、他国からの批判は気になる。韓国民の間からも犬食文化に反対する声は高まり、補身湯の看板を掲げる犬肉料理専門店は表通りから姿を消した。

 古くからの伝統料理だけに犬肉食愛好家がいなくなったわけではない。裏通りに入れば、看板も出さずに営業している犬肉料理店は多い。事情を知らない外国人などには、まずわからないだろう。

 しかし、こういった裏路地の店も、2002年の日韓共催ワールドカップや2018年の平昌冬季五輪など、大きな国際イベントが開催されるたびに内外の批判にさらされて、その数を減らしていった。

 また、人々の思考も80年代と比べると激変している。豊かになった韓国社会では、ペットとして犬を飼う家庭が増え、犬の飼育頭数は2000年代初頭と比べて約3倍も増えている。犬は食物ではなく、かわいがり愛するべき対象に変わってきた。ある調査によれば、韓国民の約80%が犬肉を食すことに反対しているという。

伝統の食文化も、世界からの批判にはあらがえず

 法律など制定せずとも、犬肉食はいずれ消えゆく運命なのかもしれない。同じ犬肉食文化のある中国やベトナムよりも、消費量ははるかに少なくなっている。

 ところが、欧米諸国では、犬肉食と言えば現在でもまず韓国がイメージされるようだ。動物愛護団体が犬肉食批判キャンペーンを行えば、中国やベトナムよりも韓国がやり玉にあげられることが多い。「韓国人は犬を食べる民族」と、最初に植えつけられたイメージは、そう簡単に払拭できない。

 欧米人からは、日本の鯨肉食文化と同様に、犬肉食は野蛮で奇異な風習として見られている。先進国を自負するようになった現在ではなおのこと、プライドの高い韓国人には、自分たちが世界からそのように見られることが許せない。犬肉を食べなくなった大半の韓国人は、自国の犬肉食文化を完全に淘汰したいと考えるようにもなる。

 文大統領が犬肉食文化の法規制を提唱するようになったのは、そういった民意を反映したものかもしれない。
 

外から批判されると食文化を守ろうという反発も

外から批判されると食文化を守ろうという反発も

補身湯(ポシンタン) 出典 不明 [Public domain], via Wikimedia Commons

外から批判されると食文化を守ろうという反発も

 これを他の東アジアの国々と比較してみると面白い。日本の鯨肉食文化が海外から批判された時には、反発する声のほうが大きかった。それまで廃れつつあった鯨肉料理が、テレビや雑誌で取り上げられるようになり、かえって専門店が繁盛し、居酒屋などで鯨肉料理が、新たなメニューに加わるといった現象が起きている。

 中国の場合も同様、自国の食文化を他国から批判されると反発が起こる。食文化を守ろうとする動きが活発になるものだ。

 韓国にも犬肉食文化への批判に反発する層がいないわけではないのだが…、それよりも、他国の視線を気にする者が圧倒的に多いようではある。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。

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