野犬の群れが人や家畜を襲う

野犬の群れが人や家畜を襲う

野犬による被害が増えている韓国

野犬の群れが人や家畜を襲う

 最近は韓国各地で野犬による被害が急増。新型コロナウイルスと同様に、国民の安全や韓国経済に対する脅威となっている。

 今年5月22日には、京畿道南楊州で山中を散策中の50代女性が野犬に噛まれて死亡した。目撃者の証言によれば、犬は後方から走ってきて首に噛みつき、女性が動かなくなると山中に逃走して行ったという。

 女性を襲った犬は捜索隊の山狩りによって捕獲されたが、体重30キロ・グラム以上にもなる大型犬。専門家が調べたところ、北朝鮮の重要天然資源(日本の特別天然記念物に相当)に指定される豊山犬と、サモエド犬の雑種だったという。ちなみに豊山犬は、故金正日(キム・ジョンイル)総書記がプリンセス・テンコーに贈呈したことで、当時は日本でも話題になった希少犬種だ。

 また、慶尚南道でも飼主に捨てられた犬が野犬となって群れをなし、近隣の家畜を襲撃する事件が頻発。5月には金海地域だけでも1000羽以上の鶏が殺され、養鶏場経営者たちを悩ませている。

増加する捨て犬

 韓国では毎年約12万頭の犬が捨てられるという。この数は年々増加し、さらに犬の体格も大型化している。日本のバブル期にも大型犬の飼育が流行り、90年代の不況のころになると、飼いきれなくなった大型犬の多くが山中に捨てられた。それが野犬化して問題化したことがある。同様の状況が、現在の韓国でも起きているようだ。

 また、野犬の増加や大型化に加えて、もっと恐いのが狂犬病である。日本やイギリスといった島国では、狂犬病ウイルスは、ほぼ絶滅して過去のものとなっている。が、世界にはまだそれが蔓延している地域も多い。

狂犬病の再発生期に突入か?

狂犬病の再発生期に突入か?

豊山犬(プンサンゲ) 出典 Maeng9981 [Public domain], via Wikimedia Commons

狂犬病の再発生期に突入か?

 朝鮮半島では日韓併合とともに狂犬病ウイルスが流入し、1945年までは年間800頭以上の狂犬病が発生していた。戦後の韓国ではワクチンの普及によって激減し、1980年代には年間発生件数10頭以下に。また、1985~1993年までは狂犬病の発生はゼロに抑えられていた。しかし、1993年には8年ぶりに1頭が狂犬病を発症し、翌年にはそれが13頭に増えている。牛や野生のタヌキなどにも狂犬病ウイルスの感染が確認されるようになった。韓国の保険当局は、この状況を「再発生期」として警戒を強めている

 狂犬病の撲滅には、ワクチン摂取と野良犬の駆除が最も有効な手段とされる。実際、戦前は韓国総督府によって20万頭以上の野良犬が駆除され、これも戦後に狂犬病が激減した要因の1つと考えられている。それだけに…、野犬が急増している現在の状況が不気味ではある。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)などがある。

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