素早くすっきり謝罪できるかが勝敗を決める

 来年3月に行われる韓国大統領選は、有力2候補が、ほぼ同時に家族のスキャンダルに見舞われ、連日謝罪に追われるという前代未聞の展開になっている

 与党候補は息子の賭博、野党候補は妻の経歴詐称疑惑だ。

 有権者も投票先を決めかねている。儒教の国、韓国では、目上の人間が間違いを認めて謝罪するのは、恥ともされるが、どれだけ素早く、すっきりと謝罪できるかが勝敗を決めそうだ

【李在明候補】時には土下座まで

【李在明候補】時には土下座まで

ラジオ番組に出演する李在明氏 出典 경기도 뉴스포털 [Public domain], via Wikimedia Commons

 与党「共に民主党」の候補、李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事が謝ったのは、李氏が城南市長時代に行った都市開発事業を巡る側近の疑惑などだ。

 「この2か月だけで、李氏は7回謝罪した」(韓国の政治評論家)。頭を下げっぱなしという印象だが、それでも足りないと感じるのか、時には李氏は、土下座し、床に頭をこすりつけることもある。

 日本でもよく知られているイケメンの曺国(チョ・グク)元法相に関しては、娘の不正入学事件が、若者の強い怒りを買っている。

 李在明氏は、同じ与党の仲間として、曺氏をかばっていたが、12月2日、態度を一変させた。

 「(曺氏は)ネロナムブル(他人に厳しく、自分に甘いという流行語)で、国民が期待する公正性を毀損(きそん)して失望をさせた」「非常に低い姿勢で、真剣に謝罪する」と発言した。

 これには党内からも「裏切り」との批判が続出したが、李氏にとっては、浮動票を得るため、やむを得ないと判断したのだろう。

 最も打撃となりそうなのは、長男の賭博疑惑だ。違法サイトで、賭博を繰り返していたことが12月16日に新聞に暴かれ、李氏はその日のうちに事実を認めた。息子の買春疑惑についても報じられており、今後、事件に発展する可能性がある。

 ただ、李氏は即断即決タイプなため、報道直後に潔く事実を認め、頭を下げており、これが好感され、むしろ支持率は上がっている。

【尹錫悦候補】事実確認が先、で傷広げる

【尹錫悦候補】事実確認が先、で傷広げる

焼肉で電撃和解と報じられた尹錫悦氏(左)と国民の力の李俊錫(イ・ジュンソク)代表 出典 고려 [Public domain], via Wikimedia Commons

 一方の有力候補である最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長は、この2か月で5回謝罪したという。

 まずは、先日死去した全斗煥(チョン・ドファン)元大統領について、「軍事クーデターと光州5.18を除けば、政治はよくやったと評価する全羅道の方々が多い」と発言して、批判の嵐にさらされた。全氏は、光州事件の市民弾圧で、国民から嫌悪されている。

 尹氏を最も苦しめているのが、妻の経歴詐称疑惑だ。

 妻が、就職のため韓国の大学に提出した経歴書に誤った記載が数多く発見されたことが発端だった。

 尹氏は、当初「まず事実関係を把握する」と説明していた。捜査の専門家らしい慎重な発言とも言える。

 ところが、韓国では、過去にも著名人の家族が、経歴、学歴を偽造し、有名大学に入学、もしくは、大学教授の職を手に入れるケースがあり、世論は厳しい。開き直ったような釈明をした尹氏に対して、批判が相次ぎ、傷口を広げる結果となった。

報道は過熱の一途。政策はどこへ?

報道は過熱の一途。政策はどこへ?

日々変化するリアルメーターの支持率を伝える 出典 中央日報

報道は過熱の一途。政策はどこへ?

 これに抗しきれず、尹氏は疑惑が報道された12月14日からの3日後になって、「国民の皆さんに心配をかけ、申し訳ない」と、謝罪文を読み上げざるを得なくなった。

 韓国では過去にも、大統領候補の家族スキャンダルが弾けたことがある。候補者の息子が兵役義務を不正に逃れたのではないかという疑惑で、選挙の敗因にもなった。

 ただ、「与野党の有力大統領候補の家族が、ほぼ同時に問題になったのは初めて」(韓国紙)といい、韓国大統領選史上の珍事となっている。

 世論調査によれば、家族や親族の別の不祥事が早くから報道されていた李氏に対し、前検事総長の尹氏は「公正さ」を売り物にしていただけに、支持率の落ち込みが激しい

 「スキャンダル暴きをやめ、政策で勝負しよう」という呼びかけも出ているが、メディアの報道は過熱する一方だ。

 この嵐をどちらが耐えきるか、選挙の行方は、ますます混沌(こんとん)としている。

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など、近著『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)。
@speed011

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