闇両替が必要なワケ

闇両替が必要なワケ

外国人旅行者が訪れる場所でも北朝鮮ウォンで表示されているが実際の支払いはユーロや人民元となる

 北朝鮮では今年に入ってから、闇両替市場が活況を呈している。

 自国通貨のウォンを売り、中国元や米ドルを買い求める人々が急増。そのため、ウォンの価値が急落し、当局も闇両替の取り締まりを強化しているという。

 日本をはじめとする先進国では、自国通貨を銀行に持っていけば、いくらでも米ドルやユーロと交換できる。よって、闇両替を利用する必要はなく、闇両替市場が形成されることもない。

 しかし、外貨不足の国では、両替が厳しく制限されている。そのために人々は必要な外貨を非合法の両替業者から調達せねばならない。

 需要と供給に応じて変動する闇両替のレートは、公定レートよりよほど自国通貨の価値に見合ったものになる。

 たとえば、内乱状態のミャンマーでは、公定レートと闇レートの差が150倍にもなっている。自国通貨の信用力が下落して外貨との交換を望む者が多くなれば、それだけ公定レートとの差も大きくなる。

 北朝鮮ウォンの場合も1月中旬から下旬にかけての約2週間で闇市場における価値は35%下がっている。北朝鮮ウォンは危機的状況に陥ったようだ。

 中国との貿易が再開したことで外貨需要が増したことが原因とされるのだが…。

通貨防衛のために外貨兌換券が復活

 北朝鮮では建国以来、自国通貨と外貨の交換は禁じられ、旅行者の支払いは、すべて日本円や米ドルが使われた。

 しかし、1997年になると経済貿易地帯に指定された羅先に限り通貨交換を認めるようになる。

 公定レートは1米ドル=2.16ウォン。故金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日にちなんだ数字なのだが、実勢レートには程遠い。

 また、国内生産が衰退して物資を輸入に依存するようになったこともあり、闇市場が発展する条件はそろっていた。

 当初は、国内で流通する北朝鮮ウォンとは違って、外国人が外貨と交換するのは、外貨兌換券と呼ばれる別種の紙幣。

 これは貴重な外貨の回収をやりやすくする措置で、かつては、中国でもこの手法を取っていた。 

 その後、デノミの実施や非現実的な公定為替レートも変更される。が、それでも実勢レートとの差は解消されず。

 現在の公定レートは1米ドル=130ウォンと伝えられるのだが、闇相場では、今年1月中旬頃の相場で1ドル=5000ウォン前後、下旬になると7000ウォンを越えそうな勢いで推移したという。

 北朝鮮政府も外貨流出を懸念して昨年10月には、外貨兌換券を復活させるなどの防衛策を実施しているのだが、今のところその成果は現れていない。

北朝鮮ウォンは取扱要注意の“危険物”

 価値の低下が著しい北朝鮮ウォン。また、取り扱いについては中国元や米ドルよりもはるかに難しい。

 かつて紙幣には故金日成(キム・イルソン)主席の肖像が描かれていた。

 肖像画を粗末にすれば、政治犯収容所に入れるというお国柄。紙幣の肖像の部分を折り曲げると不敬にあたるということで、2つ折りの財布に入れることもできない。

 紙くずの価値しかなく、取り扱いを間違うと破滅を招きかねない“危険物”。厄介な代物だ。

 さすがに当局もその不都合に気がついたようで、2009年にデノミが実施されてから発行された新紙幣では、指導者の肖像を用いなくなった。

 2014年に新紙幣に切り替わった最高額面の5000ウォン紙幣も金日成主席の生家を図柄に採用している。

 しかし、肖像は消えても指導者にまつわる図柄は、相変わらず敬意を払わねばならない対象のようではある。面倒くさいことには変わりない。

 毛沢東やベンジャミン・フランクリンの肖像を描いた紙幣なら気を使う必要もないのに…と、そんな国民感情もウォンの価値を下落させる要因の1つか。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。 

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