立て続けに対韓談話を発表した金与正氏

立て続けに対韓談話を発表した金与正氏

労働新聞に掲載された3月24日の火星17発射後に笑顔を見せる金正恩氏(提供 コリアメディア)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)副部長は4月4日、韓国に態度の転換をせまる談話を発表した。朝鮮労働党機関紙・労働新聞などが5日、報じている。

 金与正氏は2日にも、約半年ぶりとなる対南談話を発表したばかり。

 今回の談話では、核攻撃にも言及しつつ、「誰かが手出ししないなら、決して先に攻撃しない」と述べ、韓国に自制を求めた。

 金与正談話は、北朝鮮の基本姿勢の表れであり、韓国側がどのように受け止めるか、注目が寄せられる。

珍しく韓国側の立場に理解を示す

 北朝鮮側が反発しているのは、韓国の徐旭(ソ・ウク)国防相の発言。

 徐旭国防相は4月1日、韓国軍のミサイル戦略司令部の改編式で、「北朝鮮のミサイル発射の兆候が明確である場合には、発射点と指揮・支援施設を打撃できる能力と態勢も備えている」と述べ、北朝鮮への先制攻撃について言及したのだ。

 この発言に対し、金与正氏が、4月2日、4日と、立て続けに談話を発表して、猛反発している。

 ただ、2日の談話では、徐旭国防相を「狂人でクズ」などとののしったが、4日の談話は、罵倒トーンではなかった。

 むしろ、談話の始めには、「自分らの軍隊がそれほどよく準備されているという点を国民に紹介したかった席であったと思う」と言及しており、徐旭国防相に理解を示す発言までしている。

 このような珍しい前置きをした上で、金与正氏は、「そうだからと言って、軍を代表するという者が我々を敵と称し、『先制打撃』をうんぬんしたのは、取り返しのつかないとても大きなミスであった」と指摘し、以下のように非難を展開している。

 どこか、たしなめるような口ぶりである。

金与正「韓国は攻撃対象ではない」

 金与正氏は、韓国を非難しつつも、「戦争に反対する」という点を強調している。

 談話では、「我々はすでに、南朝鮮(韓国)が我々の主敵ではないということを明らかにした」と言及。

 これは、金正恩総書記が、昨年10月11日の国防発展展覧会で、「主敵は韓国や米国、特定の国家ではなく戦争そのもの」という発言を指しているとみられる。

 さらに金与正氏は談話で、「南朝鮮軍が我が国家に反対するいかなる軍事行動を取らないなら、我々の攻撃対象にならないということである」と述べるなど、韓国やその他国家への攻撃の可能性を否定した。

 北朝鮮はこれまで一貫して、「核兵器は自衛のため」と主張しており、今回の談話も同じスタンスで語っている。

もし韓国が攻撃すれば「核戦闘武力」使用の可能性

 他国への攻撃を否定しながらも、談話では、もし、韓国が北朝鮮に攻撃するならば、「核戦闘武力」投入の選択肢があることをほのめかした。

 金与正氏は、「南朝鮮が我々と軍事的対決を選択する状況が到来するなら、やむを得ず、我々の核戦闘武力は、自己の任務を遂行しなければならなくなるであろう」と言及。

 核保有国である北朝鮮を相手に戦争をすれば、韓国軍には、「壊滅、全滅に近い悲惨な運命」しかないと警告している。

 その上で、談話では、「これは決して威嚇ではない」とし、「南朝鮮が軍事的妄動を強行する場合の我々の対応とその悪結果に対する詳細な説明であると同時に、また南朝鮮が核保有国を相手に軍事的妄想を慎むべき理由を説明しているのである」として、韓国に自制を求めた。

新政権発足前に南北対立を望まない姿勢を示したか

 今回の談話は、とどのつまり、「核保有国を攻撃すれば、悲惨なことになるのは韓国だ。韓国と戦争する気はないから、先制攻撃などという妄言は慎むべき」というメッセージだ。

 談話では、南北を「互いに戦ってはならない同じ民族」と位置付けるなど、韓国との対立を望んでいないことをアピールしている。

 対北強硬派である尹錫悦(ユン・ソクヨル)新政権誕生前に、南北間で対立したくないとする北朝鮮側の意図が垣間見える。

 “毒舌姫”と言われるようになった金与正氏だが、実際のところ、金与正氏が独断で談話を発表することは、まずあり得ない。

 北朝鮮指導部の意向が入っていると考えられるので、今回の金与正談話も北朝鮮の公式見解と見ていいだろう。

「戦争反対」主張、ウクライナ危機も影響?

 4月4日の談話で興味深いのは、繰り返し、「戦争反対」と主張していることだ。

 金与正談話に限らず、北朝鮮側はここ数年、戦争を意図するような発言は、注意深く避けている。

 今回の談話でも、韓国と戦火を交える例え話を出しつつも、攻撃相手を「南朝鮮軍」と記すことで、韓国国民全体に攻撃する意図がないことを暗に示している。

 これは、ウクライナ危機により、多数の民間人が犠牲になっている現状を踏まえたものとも考えられる。ロシアの軍事侵攻自体には、賛成・反対の立場を明らかにしていない。

 北朝鮮としては、自国の核・ミサイル開発を「自主権を守るための自衛権の行使」とする立場を堅持しており、他国への攻撃や侵略、戦争には反対してきた。

 米国との対立を見据え、今後も軍事力の強化を続けるにあたっては、この立場や論理は崩せないだろう。

八島 有佑
@yashiima

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