若い韓国人はほとんど漢字が読めない

若い韓国人はほとんど漢字が読めない

台座にはハングルで世宗大王と刻まれ2009年に建てられた世宗大王像(ソウル・光化門広場)

 韓国のハングルは、文字に意味はなく音のみを表す。つまり、日本語の平仮名やカタカナと同じ表音文字である。

 日本語の場合は平仮名やカタカナに、1つひとつの文字が意味を持つ中国由来の表意文字の漢字を組み合わせて文章を作る。

 韓国でもかつてはそうだった。

 書物や新聞は漢字とハングルを使って文章が作られていた。戦後に独立を果たした時にも、国名には「大韓民國」と、日本や中国と同じ漢字表記を採用している。

 ところが、最近の韓国で発行される新聞や書籍に、漢字を目にすることはない。

 50代よりも若い世代になると、漢字をほとんど漢字が読むことができず、日本の小学生低学年のほうがよっぽどましなのだとか。

独立後に燃え上がる漢字排除の動き

 「なぜ韓国人は漢字を忘れてしまったのか?」それは政治的な理由が大きい。

 中国の冊封国だった李氏朝鮮はすべての文書に漢文を使ったが、教育を受けていない庶民には難解で理解不可能。漢字の読み書きができることは知識階級のステータスでもあった。

 朝鮮半島を併合した日本は、庶民の識字率を高めることに力を注ぐ。

 文字の読み書きを安易にするため、漢字にハングルを組み合わせることを考案。これを学校教育で普及させた。

 やがて庶民の間でも、漢字とハングルを組み合わせた文章でつづられた新聞や雑誌が読まれるようになる。

 日本の敗戦で独立を果たした後も、しばらくはその状況が続いていた。

 しかし、独立後に燃え上がったナショナリズムは、ハングルを“世界1”と自賛。そこに組み込まれた外国由来の漢字を嫌悪し、排除をもくろむ動きが顕著になってくる。

 韓国の独立から2か月後には、公文書にはハングルだけを用いるという「ハングル専用法」が制定された。朝鮮戦争停戦後には、漢字廃止運動がさらに叫ばれるようになる。

南北の独裁者は漢字が大嫌い

 1967年の大統領選挙で当選した朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は、公約の1つである漢字排斥政策を強力に推し進めた。

 学校の教育カリキュラムから漢字を排し、教科書はハングルだけで表記されるようになる。

 また、新聞などのマスメディアでも漢字を使わずハングルだけの表記とするよう指導が行われた。

 独裁政権下の有無を言わせぬやり方で、韓国社会から漢字が消える。

 また、北朝鮮も建国後に漢字を廃止し、1964年には故金日成(キム・イルソン)主席が「漢字は朝鮮語発展の邪魔」と語ってその撲滅に力を入れたという。

 南北関係が最悪の時期だが、漢字を抹殺しようという意志は、両国の独裁者の間で共通していたようだ。

 中国や日本など隣国の支配を受けた屈辱。外国由来の言葉を廃することで、嫌な過去の記憶も消し去りたい。その思いが、極端な漢字廃止につながったと言われる。

世宗がハングルを考案するも廃れることに

 しかし、ここで思うことが1つ。そうなるとハングルもまた排斥の対象になってしまうのではないか、と。

 ハングルは李氏朝鮮第4代の王・世宗が朝鮮固有の文字を作ることを目指し、1433年に考案されたものだという。

 しかし、当時の知識階級には漢字信奉とハングルへの偏見が強く、公文書でこれが使用されることはなかった。

 また、朝鮮半島は地域によって発音がかなり違う。語法についてもばらつきがあり、そのため表音文字であるハングルでは意味が通じないことが多かった。

 そんな欠陥のあるハングルは庶民にも敬遠され、これを習得しよういう者はおらず。すっかり廃れて使われなくなってしまう。

ハングルの普及は日本の功績だった。発明も?

 しかし、日韓併合後にそのハングルが再評価された。

 庶民に文字を普及させたいと考える朝鮮総督府は、習得が簡単なハングルがそれには最適。ハングルの欠陥を修正し、使える文字として普及させようと考えた。

 明治15年(1882)に総督府顧問となった井上角五郎を中心とする研究チームが、ソウルの発音語法を基に統一したハングル文字が完成。これを学校教育の場で教えた。

 初等教育の普及に合わせて改良版ハングル文字は定着するようになり、日韓併合前は1%以下と言われた庶民の識字率は急速に向上。1940年代には、ほぼ半数が文字を読めるようになっていたという。

 この経緯を考えると、「ハングルもまた漢字と同じ廃止運動やNO JAPAN運動の対象になるのでは?」

 そうなると、韓国人は「文字を持たない民族」ということになってしまうのだが…。

青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。

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