休戦会談を行う両陣営(1951年10月11日) 出典「ウィキペディア

いまさら聞けない「朝鮮戦争」のなぜ?2の続き。

 朝鮮戦争は1953年7月27日に休戦となった。休戦の次には終戦に向けた話し合いが進められるはずだった。ところが、逆に朝鮮半島では対立の構図が残り、にらみ合いは変わらなかった。最終回は、休戦がどうして60年以上も続くことになったのか書きたい。

なぜ休戦後に韓国に米軍が残ったのか

 27日の午前10時、板門店にあった休戦会談場に国連軍側と共産軍側首席代表が座った。会話もないまま双方が、9通の文書1つひとつに署名をした。

 調印が続いている間にも、国連軍の戦闘爆撃機が休戦会談場近くで爆弾を投下しており、爆発音が低く響いていた。

 署名にかかった時間は約10分。双方は休戦協定書を交換して何の会話もかわさず、そのまま会談場を後にした。

 休戦協定はソ連が休戦を提案して、交渉が始まってから2年と17日、計25か月間続き、会談は計765回も開かれた。お互いに有利な条件で休戦に持ち込もうと、駆け引きを続けた結果だった。

 休戦協定が署名された2時間後、韓国の李承晩大統領は次のような声明を出した。彼は休戦に反対し、署名に加わらなかった。

 「休戦協定は調印された。(中略)希望を捨てるな。われわれはあなたたちを忘れはしない、知らないふりもしない。朝鮮民族の基本目標は、この目標を達成することを確約したのだ」(『韓国戦争第6巻 休戦』かや書房)

 「休戦には反対だが邪魔はしない。必要なら再び戦争を行う」という、悔しさと矛盾に満ちた声明だった。

 李大統領は、休戦を邪魔しないという条件で、アメリカから約束を取り付けた。在韓米軍の休戦後も韓国内に駐留させるという「米韓相互防衛条約」で、1953年10月1日に調印された。アメリカはこの条約に従い、韓国防衛を行うことになった。

 一方で北朝鮮もソ連、中国と軍事同盟を結び、南北がにらみ合う構図は変わらなかった。

もし朝鮮戦争の「終戦宣言」が出されたらどうなるか

 終戦宣言の目的は、戦闘行為を再開しないというのが目的であり、おおまかな理念を盛り込んだ政治的宣言だ。

 ところが、この宣言に対する警戒感が米国で強まっている。

 例え政治的な宣言だとしても、米国は韓国との軍事演習がしにくくなる。「戦争を止める」と宣言したのに、どうして戦争訓練をしているのか、と批判されるからだ。

 さらに朝鮮戦争で組織された米韓軍を中心とした朝鮮国連軍も、存在があやうくなる。そもそも平和を取り戻すまでの一時的存在として認められた軍だ。平和な状態が戻ったら、解散する必要が出てくるだろう。

 終戦宣言には、軍事面のことは「現状維持」と書き込まれる見通しだが、それでも終戦宣言は、韓国の安全保障体制に大きな影響を与えるだろう。
 

なぜ日本は、朝鮮戦争の終戦を怖がるのか

なぜ日本は、朝鮮戦争の終戦を怖がるのか

沖縄・普天間基地からの移転が進む辺野古 出典「ウィキペディア

なぜ日本は、朝鮮戦争の終戦を怖がるのか

 隣国での緊張が無くなるのは、無条件で好ましいことであるはずだ。ところが現実にはそうはいかない。

 こんな例え話をすれば分かってもらえるかもしれない。マンションの隣の部屋の夫婦はいつもケンカしている。こちらもうるさくて迷惑だが、ケンカに夢中になっているおかげでこちらは自由にできた。大きな音で音楽をかけたり、ベランダでタバコを吸ったりもできた。

 ところが隣の夫婦が仲良くなると、こちらの生活に文句をつけ始め、ケンカが絶えなくなった…。

 このように、南北朝鮮の和解は、日本にとって不都合になるという見方をする人が少なくない。日本政府も、表向きは南北の和解を歓迎しているが、在韓米軍の縮小、撤退が進めば、在日米軍にも影響が出るかも知れないと心配している。

 今、日本政府は、沖縄の普天間基地を移転させるため、代替基地の建設を強行している。これも朝鮮半島情勢から見ると理解しやすい。

 新たな基地建設を実現し、どんな事態が来ても、在日米軍をつなぎ止めておこうという願いがあるのだ。

 朝鮮戦争が終わらせないと平和は戻ってこないが、終わっても課題は多い。

 しかし、私はやはり、終戦宣言を出し、朝鮮戦争は早期に終わらせるべきだと考えている。その意味でも、われわれ1人ひとりが、朝鮮戦争がもたらしたものや、完全終戦後の北東アジアについて考えたいと思う。 
                             
(終)

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)など。
公式メールマガジン http://foomii.com/00123

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