在留外国人管理上の韓国籍と朝鮮籍は実際の国籍ではない

在留外国人管理上の韓国籍と朝鮮籍は実際の国籍ではない

「特別永住者証明書」のサンプル(出典「出入国在留管理庁」)

在留外国人管理上の韓国籍と朝鮮籍は実際の国籍ではない

 法務省(出入国在留管理庁)が公表した在留外国人統計によると、2019年時点で日本に居住する韓国籍、朝鮮籍の保有者の総計は約48万人にのぼる。在日外国人としては、中国籍(約78万6000人)に次いで2位となる。

 これは日本に長期間在留する外国人に交付される「在留カード」(朝鮮籍などの特別永住者には「特別永住者証明書」が交付される)の「国籍・地域」欄に「韓国」、「朝鮮」とそれぞれ記載されている人の数である。内訳で見ると、韓国籍は約45万1000人、朝鮮籍は約2万9000人となっている。

 ちなみに、朝鮮籍=在日朝鮮人、韓国籍=在日韓国人というわけではない。広義の意味では、何らかの事情で国籍を変更したものの、在日朝鮮人もしくは在日韓国人としてのアイデンティティを持つ人も含まれるからである。そのため、在日朝鮮人、在日韓国人の総数はさらに多くなる。

 注意が必要なのは、在留カードで示される国籍は本人の国籍を証明していない点である。国際法の原則上、国籍の取得や喪失に関する立法は各国の国内管轄事項であるとされている。つまり、日本政府が在留カードの記載によって国籍を決められるものでないし、証明もできない。

 簡単に言えば、北朝鮮の海外公民であれば朝鮮民主主義人民共和国政府が、韓国の海外公民であれば大韓民国政府がその者の国籍を証明する必要があるのだ。この証明は旅券(パスポート)などの発行による。

 その上で重要なのは、韓国籍の場合は「大韓民国籍」として国籍が存在するが、日本国内において朝鮮籍や「朝鮮民主主義人民共和国籍」なるものは認められていないという点である。

 このことを理解するためには、1947年の「外国人登録令」(のちの「外国人登録法」)までさかのぼる必要がある。

朝鮮籍=北朝鮮の海外公民ではない

 外国人登録令は「朝鮮人を外国人とみなす」と規定し、朝鮮戸籍登載者は日本国籍を持ちつつも外国人登録証明書の「国籍」欄については出身地域の区別なく一律に「朝鮮」と記載されることになった。これが朝鮮籍の始まりであり、南北の区別はない。

 だが、翌年の1948年に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と大韓民国(韓国)が南北分断政府を樹立したことで事情が変わる。

 韓国政府の要請もあって、1950年に日本政府は「本人からの申し出」さえあれば国籍欄の記載を「朝鮮」から「韓国」に書き換えることを可能としたのだ。韓国籍の誕生である。

 1951年以降は、韓国籍への変更に韓国政府発行の「国籍証明書」が必要となったことで、実質的にも韓国籍は「大韓民国(韓国)の海外公民」と言える。

 その後、2012年に改正出入国管理法が制定されて外国人登録証明書は在留カードに代わったが、現在でも日本政府は朝鮮籍を「朝鮮半島出身者およびその子孫等で、韓国籍をはじめいずれかの国籍があることが確認されていない者」と定義している。

 つまり多くの人が誤解しがちであるが、「朝鮮籍=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の海外公民」ではないということだ。
 

日本では朝鮮民主主義人民共和国の国籍は不認定

 では、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の海外公民としての国籍はどう表すのかという話になるが、結論から言えば現在の日本において朝鮮民主主義人民共和国の国籍は認められていない。

 日本政府の立場によると、「北朝鮮を国家として承認していないのだから北朝鮮の公民は日本国内にはいない」という論理なのだ。

 たとえば、前述のように国籍を証明する方法として各国が発行する旅券(パスポート)がある。「朝鮮民主主義人民共和国旅券」の場合は「在日本朝鮮人総聯合会」(朝鮮総連)が窓口となって発行している。

 本来この旅券さえあればどこの国に行っても国籍を証明できるはずが、日本政府は未承認国である朝鮮民主主義人民共和国旅券を「有効な旅券」として扱っていないためそれも不可となる。

 実際に北朝鮮の海外公民であったとしても、日本国内においては無国籍者という扱いになり、彼らは自身の国籍を証明する手段がないのだ。

韓国籍・日本籍から朝鮮籍への変更はできるのか?

 朝鮮籍はこのように便宜上の国籍であることから特殊な状況に置かれている。

 たとえば、朝鮮籍から韓国籍への書換えはさほど難しくないが、韓国籍から朝鮮籍への書換えは制度上困難となっている。

 朝鮮籍に変更するには、申請者が出生時より、(1)大韓民国旅券の給付を受けていないこと、(2)韓国で国民登録を行なっていないこと、(3)「協定永住」の資格を有していないことの3要件をすべて満たす必要がある。

 現在、日本在住の韓国籍保有者の中でこの要件をすべて満たしている者はごく少数と考えられ、書換えは事実上不可能に近いのだ。

 子が幼いときに両親とともに朝鮮籍から韓国籍に変更し国民登録を行っていた場合、子が大人になってアイデンティティを確立して「朝鮮籍を取得したい」と考えるにいたっても不可能となる。

 その他にも朝鮮籍保有者と日本国籍保有者が婚姻した場合、朝鮮籍の配偶者が日本国籍を取得することは可能だが、日本人配偶者が朝鮮籍を取得する際に問題が生じる。

 日本人配偶者が本国から正式に朝鮮民主主義人民共和国の国籍変更を許可されたとしよう。だが、日本政府は朝鮮籍もしくは朝鮮民主主義人民共和国籍の取得を認めない上に、国内において無国籍状態になることを防ぐため日本国籍の離脱も許可していない。そのため、この配偶者は実質的に朝鮮民主主義人民共和国籍とともに日本国籍も併せて保持するという不自然な状況に置かれるのだ。

 本来の国籍原則によれば本国(北朝鮮)が認めた国籍を他国が否定することはできないはずが、日本ではこのような扱いがなされている。
 

朝鮮籍保有者は海外渡航のハードルが高い

 朝鮮籍の場合は海外渡航でも韓国籍と異なる扱いを受ける。

 朝鮮籍保有者が海外に渡航する場合は、前述の朝鮮総連発行の朝鮮民主主義人民共和国旅券か、法務省が発行する「再入国許可書」を旅券(パスポート)代わりにすることが必要となる。

 これに加えて、外国籍者はその国籍にかかわらず、日本に再入国するための手続きとして事前に法務大臣から再入国許可を受けることが必要である。

 海外渡航するたびに許可を受ける必要があったのだが、2012年からはこれが免除される「みなし再入国許可」という制度が開始された。これは、在日外国人が「有効な旅券」を所持していることを条件に、日本出国の日から1年以内(特別永住者の場合は2年以内)に再入国する場合に限り、再入国許可の取得を不要とする制度である。

 これは非常に便利な制度だが、前述の通り日本政府は朝鮮民主主義人民共和国旅券を「有効な旅券」と認めていないため、仮に同国の旅券を持っていたとしても朝鮮籍保有者は制度の対象外となっている(その他の国の旅券を取得していればそもそも朝鮮籍ではないため)。

 再入国許可の手続きを踏めば海外渡航できるとは言え、朝鮮籍の問題は置き去りにされた形である。

 余談だが、朝鮮民主主義人民共和国旅券(再入国許可書の場合も含む)では査証(ビザ)を取得しなければ訪問できない国が多い。

 英企業「ヘンリー・アンド・パートナーズ(Henley & Partners)」が今年1月に公表したデータによると、日本国旅券は191か国(第1位)、韓国旅券は189か国(第3位)をビザなしで訪問することができるが、北朝鮮旅券がビザなしで訪問できるのは39か国(100位)にとどまっている。

朝鮮籍を選ぶ人と韓国籍を選ぶ人のそれぞれの思い

 法務省の統計データによると、1989年から2018年までの30年間で約23万人が朝鮮籍または韓国籍から日本国籍に帰化しており、直近5年間では年5000人前後となっている。実数は不明だが朝鮮籍から韓国籍への変更も毎年一定数存在している。

 日本国籍や韓国籍に変更した人たちに話を聞くと、必ずしも各政府を支持し、日本人や韓国人になりたくて積極的に国籍変更を希望する人ばかりではない。朝鮮籍では社会生活上で不便があることや、朝鮮籍というだけで「北朝鮮シンパ」に見られて差別を受けることがあるなどの理由から結婚や出産、就職などを機に国籍を変更する人もいる。

 その一方で、朝鮮籍にこだわる人ももちろん多数いるし、前述のように制度上困難ながらも韓国籍から朝鮮籍への変更を目指す人もいる。

 朝鮮籍を選ぶ理由は様々で、「自分は朝鮮民主主義人民共和国の公民である」というアイデンティティから朝鮮民主主義人民共和国籍の代わりとして朝鮮籍を選ぶ人もいれば、朝鮮籍を「韓国でも北朝鮮でもない1つの朝鮮を表している」と捉えて選択する人もいる。

 朝鮮籍はあるときは「無国籍者」、あるときは「北朝鮮の海外公民」としての扱いを受けてきた。朝鮮籍と韓国籍の存在やその選択は、在日韓国、朝鮮人の歴史やあり方にかかわるものと言える。

 日朝国交正常化がなされれば朝鮮籍の問題はおのずと解消されるかもしれないが、現時点においても問題改善のために議論を進めていくべきだろう。
 

八島 有佑

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