外貨枯渇の初期段階に来ている。韓国銀行経済研究院

外貨枯渇の初期段階に来ている。韓国銀行経済研究院

中朝貿易の7割を支える丹東・中朝友誼橋

北朝鮮の外貨が来年底を突く 注目の論文から読み解く正恩氏の次の手(1/2)の続き。

 2つ目は、韓国の中央銀行である「韓国銀行」の経済研究院が今年1月に公開した「ドルライゼーションが拡散した北朝鮮経済の保有外貨減少が物価・為替レートへの影響」。ドルライゼーションとは、ドルによる取引の普及という意味だ。

 この論文は、北朝鮮が保有している米ドルは「2014年基準で、最小30億1000万ドル~最大66億3000万ドル程度」と推定している。

 この論文によれば、外貨には「取り引き用」と、国家の信用を維持する「価値保存用」の2種類あるという。

 外貨の減少は3段階を経て進む。初期段階では、価値保存用の外貨が減り、次は取り引き用が減少し、最終段階では取り引き用も底をつき、いわゆるデフォルト、国家が破産状態になる。

 韓国も1997年に外貨の急速な流出が起き、インフレ、通貨ウォンの為替レートが乱高下し、IMF(国債通貨基金)から支援を受けている。

 韓国銀行の報告書は、「北朝鮮は外貨減少の初期段階にあり、現在、経済は安定しているかのように見えるものの、2017年の国連安全保障委員会からの厳しい制裁以後、毎年ドルの保有量が10億ドル以上大幅に減少している」と指摘している。

 レポートを作成した担当者は『朝鮮日報』(1月29日付)の取材に対し、「ドル保有量の減少幅は毎年20億ドル程度と見られ、2020年の末頃に使い果たされる可能性がある」と答えていた。

ドルがなくなれば、忠誠心も消える

ドルがなくなれば、忠誠心も消える

2日の朝鮮労働党政治局拡大会議(提供「コリアメディア」)

 外貨がなくなれば、国内でまかなえない食料、医薬品、ミサイルや核関連部品、さらには正恩氏が乗っているベンツなど贅沢品も買えなくなる。北朝鮮では国内の商取引でも、ウォンではなくドルが使われているので、物価が上がり、経済が混乱するはずだ。

 なにもなくても2021年には外貨が枯渇すると北朝鮮経済の研究者は見ていたのだが、さらに北朝鮮にとって都合の悪いことは、今年に入って新型コロナウイルス問題が起きたことだ。

 感染拡大防止のため、北朝鮮は中国との国境を閉鎖した。閉鎖は7月になっても続いている。この影響で中朝貿易が9割減と大打撃を受けた。

 5月の中朝貿易は、最低限の防疫用品を中心に前月比約163パーセント増加しており、回復の兆しは出ているが、中国以外の国からの物資の購入は続いているはずなので、ドルはどんどん減っていると見られる。北朝鮮に外貨をもたらす観光客も、コロナの影響でゼロとなっている。

 こう見てくると、北朝鮮の過激な動きが理解できるだろう。金ファミリーは、豊富なドルで贅沢品を購入し、部下に与えて忠誠を誓わせていた。ドルが切れれば、国内が不安定になる危険性もある。混乱が起きる前に、正恩氏は「正面突破」を目指して、また行動を起こすだろう。

(1ドル=107円)

2つの論文のダウンロードは以下のサイトから可能(2020年7月確認)

現代北韓研究
https://www.readcube.com/articles/10.17321/rnks.2019.22.1.001

韓国銀行
http://www.bok.or.kr/portal/bbs/P0002454/view.do?nttId=10056169&menuNo=200431&pageIndex=1

五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、近著『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など。

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