公共の場や医療機関などが喫煙禁止に

公共の場や医療機関などが喫煙禁止に

統制が取れているのか外国人が見える範囲では喫煙者をあまり見かけない平壌

 北朝鮮の「朝鮮中央通信」は2020年11月5日、最高人民会議常任委員会が4日に開かれ、たばこの生産や販売、喫煙に対する規制を強化する「禁煙法」などを採択したと報じた。

 この禁煙法には劇場や映画館など公共の場、保育機関、教育機関、医療機関などに喫煙禁止場所を指定するよう定め、処罰規定も盛り込まれ、これらを違反すると罰則を受けることになる。具体的な内容は公開されていないが、厳しい統制がされることを意味しているだろう。

 かつて北朝鮮は2005年に「たばこ統制法」を制定し、公共の場での喫煙規制を強化したが、同法を一層強化した法を採択したことになる。

 北朝鮮はこれまでに、たばこ事情をめぐって、この禁煙法の他に、上記で触れた通りたばこ統制法というのも制定されている。たばこ統制法は、2005年7月20日に最高人民会議常任委員会政令第1200号として採択された。その後、2009年、2012年、2016年、直近では2019年に修正補充され、第37条によって構成されている。

0%!?北朝鮮女性の喫煙率

 2019年の「WHO(世界保健機関)」の最新の報告によると、北朝鮮の喫煙率は男性が46.1パーセント、女性は0パーセントという結果になった。北朝鮮が正式な統計資料を公開するのは極めて珍しく、唯一とも言える数字である。一方、同じ朝鮮半島で分断されている南側の韓国の結果は、男性が37.0パーセント、女性が5.2パーセントという結果であった。

 北朝鮮の女性の喫煙率が0パーセントというのが注目に値する。イデオロギーとして見ると、資本主義社会の韓国の女性の方が、社会主義社会の北朝鮮女性よりも社会進出や表現の自由などが拡大されているということが理由の一部かもしれない。

生活総和で標的にされる女性喫煙者

生活総和で標的にされる女性喫煙者

北朝鮮でたばこ統制法よりも厳しい禁煙法が採択

生活総和で標的にされる女性喫煙者

 脱北者女性に北朝鮮での女性の喫煙についてインタビューしてみると、

 (日本からの)帰国者は家で吸っている人もいたけど、それは外で吸うと非難されるからだと思う。法律で禁止されているわけではないけれど、まず女性はたばこを吸わないという感覚。運転もそうだけど…。

 1959年から始まった在日朝鮮人の祖国帰還事業で、日本から北朝鮮に戻った人々は、特に日本人妻のような女性は、北朝鮮の現地の人間からの差別など人権侵害にあうことが多かった。

 また、別の脱北女性に聞いてみると、

 吸う人はいない。非社会主義に対する教育で習う。名節のときなど特別なときに少しだけお酒を飲む人はいるが、それもほんの少しだけ。

 北朝鮮社会はその独自の厳しい統制社会として成り立っている。毎週末に行われる“生活総和”という集まりで、その地域で発見された悪事など、自薦他薦のごとくあら捜しのような標的になるという。上記の彼女たちの証言から、女性という表記こそないものの、たばこを統制する体制が古くから整っているようである。

 機会を改めて、さらにたばこ統制法について触れてみたい。

宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!-グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)など。

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