バイデン大統領が日本より先に訪韓

バイデン大統領が日本より先に訪韓

バイデン大統領と尹錫悦大統領 出典 尹錫悦公式フェイスブック

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の新政権発足後1か月になる。本格的に始動になった「今後の日本、米国、北朝鮮との関係はどうなるのか?」を展望しよう。

 まずは、米韓関係である。

 5月21日、米国のバイデン大統領は、初アジア歴訪で日本より先に韓国を選んだ。

 韓国メディアは、バイデン大統領が日本に先立って韓国を訪れたのは異例の対応だと報道した。尹錫悦新政権に対する期待の大きさの表れだと肯定的に受け止めている。

 韓国の聯合ニュースは「歴代米大統領は就任後、アジア外遊でまず日本を訪れた」と指摘。米側には、尹政権が文在寅前政権より米韓同盟を重視するとの期待があるとし、「バイデン氏にとって今回は韓国訪問が重要になる」と説明した。

 5月10日に就任したばかりの尹錫悦大統領は韓国の大統領としては、就任後最速で米韓首脳会談を実現したのである。

米韓「拡大抑止」強化で一致

 会談後の共同記者会見でバイデン大統領は、「抑止態勢をより強化し朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことで北朝鮮による脅威に対処していく」と述べ、北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させる中、核戦力を含む米国の抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」に責任を果たすことを確認した上で、抑止態勢を強化していく考えを強調した。

 これに対し尹錫悦大統領は、北朝鮮の核やミサイルの脅威について、「高度化する核・ミサイルについて深刻な憂慮を共有し、どんな課題よりも優先的に取り組む必要があると共感した」とした上で、両国の軍が毎年行っている合同軍事演習について、規模を拡大する方向で協議を始めることで合意したと明らかにした。

 両首脳は、両国の間で途絶えていた拡大抑止の強化に向けて話し合う高官レベルの協議を早い時期に再開させることで一致したということである。

 一方、冷え込んだ日韓関係について、バイデン大統領は、「日米韓の3か国が経済や軍事面で緊密に連携していくことは極めて重要だ」と述べ、関係改善への期待をにじませた。

 これを裏付けるように米国のホワイトハウスの報道官は、歴訪の順番については「深読みする必要はない」とし、「米国は日本と強い関係があり、韓国ともそうだ」と述べ、日本への配慮も見せている。

次の駐日韓国大使に尹徳敏氏

 次に日韓関係である。

 尹錫悦新政権し、次の駐日大使として尹徳敏(ユン・ドクミン)前国立外交院長(62)が内定している。

 尹徳敏氏は、日本の慶応大学への留学経験があり、日韓関係や北朝鮮問題など外交・安全保障が専門の学者で、朴槿恵(パク・クネ)前政権で次官級の国立外交院長に起用された。国立外交院の前身である外交安保研究院で約20年間、教授を務めた。

 日韓関係が悪化した前の文在寅(ムン・ジェイン)政権で就任した姜昌一(カン・チャンイル)現大使は、日本の外相や首相とも面会していないなど、日本での活動が萎縮している。

 そもそも、就任前から「(天皇のことを)“日王”と呼ぼう」などの発言が問題視されていたことも一因であった。

 しかし、両国は悪化していた関係の改善に向けた協議を加速させている。

 朴振(パク・ジン)外相の就任後初めての訪日も調整している。6月2日、韓国外交省の李相烈(イ・サンリョル)アジア太平洋局長は、韓国ソウルで日本の外務省の船越健裕アジア大洋州局長と協議した。

日米韓局長級協議で北朝鮮のミサイル発射を非難

 李氏は、韓国の調査船が、5月29、30日と独島(日本名・竹島)周辺で海洋調査を実施したことに日本が抗議したことについて、「独島は歴史的、地理的、国際法的に明白な我が固有の領土」と強調。「国連海洋法条約など国際法と国内法令に基づいて行われた正当な活動に対する日本側のいかなる問題提起も受け入れられない」との立場を示した。

 また、外務省は6月3日、日米韓局長級協議をソウルで実施したと発表した。

 外務省の船越健裕アジア大洋州局長、米国務省のソン・キム北朝鮮担当特別代表、韓国外務省の金健(キム・ゴン)朝鮮半島平和交渉本部長が出席し、北朝鮮が5月25日に弾道ミサイルを発射したことを「強く非難」した。

 3氏の協議では、北朝鮮によるミサイル発射の背景が、バイデン大統領が日韓両国を訪問し、日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会合が、東京都内で開催された直後だったことを重視した。

 北朝鮮が核・ミサイル開発を強化していることついて、「国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦だ」との認識を重ねて共有した。

史上初8発のミサイル発射の意味は?

 最後に南北関係である。

 この協議をけん制するかのように6月5日、韓国の合同参謀部の発表によると、北朝鮮は平壌の順安など4か所から朝鮮半島東の日本海上に短距離弾道ミサイル(SRBM)8発を発射したと明らかにした。

 8発をほぼ1度に発射するのは事実上初めてで、韓国や日本、在日米軍など複数のターゲットへの攻撃能力の誇示とみられる。

 米韓のミサイル防衛網の無力化を図るとともに、米韓共同訓練に対する反発の意味合いもあるとみられる。

 北朝鮮は、6月上旬に開催予定の朝鮮労働党中央委員会第8期第5回総会で南北関係と外交問題を取り上げる可能性が高い。今回、北朝鮮の発表内容を注視する必要がある。

初めて新型コロナ感染者を認めた北朝鮮の動き

 さて、その北朝鮮は、5月に入りこれまで世界でパンデミックになっている新型コロナウイルス感染症について初めて感染者がいることを公表した。

 韓国は早い段階で北朝鮮への医療支援を打診したが、北朝鮮からは無視され相手にされていない。北朝鮮は飛行機を飛ばし、中国に医療品を取りに行くなど秘密裏に動いていた。

 一連のミサイル発射は、新型コロナ感染者が爆発的に発生し、4月の大規模パレードが原因であることを国内外に払拭するためであるとも推測は十分に可能である。

 ロシアのウクライナ侵攻が長期戦になる中で、北朝鮮による武器提供なども関わってくるかもしれない。

 まだ、北朝鮮は尹錫悦大統領を名指しでこそ批判はしていなが、それも時間の問題であろう。

 尹錫悦大統領誕生前後から始まった厳しい外交関係は、北朝鮮の変数によって、大きく揺さぶられることは明らかである。

宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!-グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)。

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