老若男女に愛される韓国鉄板の国民食

老若男女に愛される韓国鉄板の国民食

ぐつぐつ煮込まれるポンテギ 出典 Piotrus [Public domain], via Wikimedia Commons

 世界最先端のKフードとして「ポンテギ」が、世界中から熱い注目を集めるかもしれない。

 ポンテギは韓国語でさなぎのこと。特に蚕のさなぎを指し、昔から安価で栄養価の高いおやつとして、韓国民に親しまれている。

 今でこそあまり見かけなくなったが、少し前は遊園地や動物園、仁寺洞のような観光スポットに必ずと言っていいほどポンテギを売る露店が出ていたものだ。蚕の繭から生糸を取った後に残ったさなぎをアジュンマ(おばさん)が、大鍋でぐつぐつと煮こむ。

 味付けは醤油と砂糖だ。それを新聞紙でできた小袋や紙コップに入れて、1000ウォン(100円弱)ほどで売る。店の周囲には独特の香りが漂い、それを韓国人はコソハダ(香ばしい)と表現する。

 元々は子供のおやつだったが、幼い頃から食べ慣れた味に郷愁を覚える大人も多く、屋台の飲み屋の定番メニューでもある。

 調理済みの缶詰は、たいていのスーパーマーケット、コンビニエンスストアで手に入る。ポンテギは、まさに老若男女に愛される国民食と呼ぶにふさわしい。

 これほど国民生活に根付いた食べ物なので、古来から伝わる伝統の食材かと思いきや、その歴史はあまり古くない。朝鮮戦争後の食糧難の時代に、製糸工場から出る蚕のさなぎを「廃物利用」で食用に回したのが始まりだそうだ。

「南ではこんなもの食べるの!」脱北美女もびっくり

 そんなポンテギは、朝鮮半島全体に広がっている食文化というわけでもない。北朝鮮では、ポンテギを食べる習慣はないそうだ。

 韓国のケーブルテレビ放送局であるチャンネルAは、10年以上前から「脱北美女に色々な体験をさせて反応を楽しむ」という番組で人気を博している。そこにポンテギもしばしば登場する。脱北美女たちは、一様に「南ではこんなもの食べるの! 北ではただの虫なのに」と驚く。

 90年代以降、頻繁に飢饉が発生し、100万人以上の餓死者を出したと伝えられる北朝鮮。ポンテギを食用にしていてもおかしくないのに、なぜ食べないのだろうか。

朝鮮養蚕史とポンテギ誕生

朝鮮養蚕史とポンテギ誕生

ネイバーショッピングで売られているポンテギの缶詰

朝鮮養蚕史とポンテギ誕生

 朝鮮半島における養蚕業の基礎は、日本の植民地統治時代に築かれた。朝鮮時代にもなかったわけではないが、規模は零細だった。

 1910年に日本が韓国を併合した時、生糸は日本の主要輸出品目で、特に対米輸出が好調だった。総督府は、植民地朝鮮を繭の生産基地にすべく積極的に養蚕業振興に乗り出した。その結果、1934年までに朝鮮半島は、有力な養蚕地帯に変貌した

 ところが、日本の敗戦によって日本人経営の製糸工場が閉鎖されると朝鮮半島の養蚕業は低迷する。さらには、国家分断による桑畑の減少、日本資本と技術の撤収、日本という最大の市場の喪失が主な理由である。

 1961年にクーデタで政権を握った朴正煕(パク・チョンヒ)は、外貨獲得の有力な手段として養蚕業に目をつけた

 養蚕業は戦略的産業とされ、3次にわたる増産計画が推進された。60年代後半には植民地期のピーク時の生産量を越えた。さらに65年の日韓国交樹立は、日本という巨大市場への輸出を可能にし、増産に弾みがついた。

 この過程で発案されたのが、さなぎの食用である。製糸工場から毎日大量に出るさなぎは、栄養価が高く、飢餓に悩まされていた当時の韓国民の栄養補給にも好都合だった。

 ただ同然の仕入れ原価で作られるポンテギは、こうして韓国の国民食になったのだ。

北朝鮮でポンテギを食べないのは“日帝”のせい?

 北朝鮮でポンテギを食べない理由も以下の歴史からわかる。

 日本は、朝鮮の植民地経営において、南部と北部で開発方針が異なっていた。石炭や鉱物資源、電力(水力発電)の豊富な北部では工業を、平野が多く、北に比べれば温暖な南部では農業を重点的に育成した。養蚕もその例外ではない。

 ピーク時の蚕の生産量の70%は南部地域(今の韓国)に集中していた。本来北部の気候が養蚕に不向きだったことも大きい。そのため、国土分断後の北朝鮮において、蚕はそれほど身近な存在ではなく、さなぎを食用にしようという発想も生まれなかった。

 そうすると、韓国で国民食にまでなったポンテギが北朝鮮で普及しなかったのは、“日帝のせいだ”と言えるかもしれない。

食糧問題解決のカギとFAOも注目。今や昆虫食は世界的ブームに

 韓国でも、1970年代後半から養蚕が斜陽産業になり、繭の生産も激減した。しかし、韓国におけるポンテギの需要は根強く、国内の生産量では足りなくなったため、今ではその多くが中国から輸入されている。

 韓国で昆虫を食用にするのは、ほぼポンテギに限られるが、中国や東南アジアでは様々な昆虫が食に供されている。

 中国では、ポンテギはもちろんバッタやサソリを食べるし、タイでもバッタやタガメを食べ、赤アリやその卵はイサーン(タイの東北地方)の名物料理になっているほどだ。

 さらに欧米でも、近年、食材としての昆虫が注目を集めている。2013年には、国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨する報告書を発表した。

 栄養価が高く、飼育スペースが小さくてすみ、環境にもやさしい昆虫食が、世界の食糧問題を解決するためのカギになるかもしれないというのだ。

 日本でも最近、東京・お台場の日本科学未来館で「未来食フェア~昆虫」や大阪阪急うめだ本店で「昆虫食フェア」が開かれるなど、注目度はとみに高まっている。

 韓国の国民食ポンテギが、最先端の食材として見直される日も近いかもしれない。


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犬鍋 浩(いぬなべ ひろし)
1961年東京生まれ。1996年~2007年、韓国ソウルに居住。帰国後も市井のコリアンウォッチャーとして自身のブログで発信を続けている。
犬鍋のヨロマル漫談

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