続報がないローマ教皇の訪朝報道

続報がないローマ教皇の訪朝報道

フランシスコ教皇

 「フランシスコ教皇が訪朝を承諾」と韓国政府が発表してから1か月が経ったが、その後は動きがない。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が10月29日、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇との会談で北朝鮮訪問を提案したところ、フランシスコ教皇は、「招待状を送ってくれれば平和のために喜んで行く」と承諾したとのことであった。

 だが、その後、ローマ教皇庁から公式見解が示されることもなければ、北朝鮮が教皇に招待状を送ったという発表もないままだ。

 2018年10月に文在寅大統領がフランシスコ教皇と会談した際にも、同じように訪朝を提案していたが、実現しないまま現在に至っている。

 フランシスコ教皇が訪朝に同意していたとしても、このまま北朝鮮から招待状が送られなければ、今回も計画が立ち消えになるだろう。

 北朝鮮がすぐに、「ローマ教皇の訪朝に興味ない」などと反応をしないところを見ると、少なくとも、「検討の余地はある」ということなのかもしれないが、韓国側には大統領任期というタイムリミットがある。

ローマ教皇の訪朝で人権問題を指摘されるリスクも

 北朝鮮側は、ローマ教皇の訪朝をどのように捉えているのだろうか。

 まず、北朝鮮は公には、国家無神論を掲げている。

 ジョン・F・ケネディ元大統領以来、史上2人目のカトリックの米大統領であるジョー・バイデン大統領や「テモテ」の洗礼名を持つカトリック信者の文在寅大統領とは、ローマ教皇やキリスト教に対する認識が異なるのだ。

 国内には教会もあり、90年代に米キリスト教福音派の伝道師であるビリー・グラハム牧師が訪朝しており、キリスト教を完全に拒絶しているわけではないが、「自由な宗教活動は保障されていない」とされる。

 2014年、オーストラリア人宣教師がキリスト教の宣伝物を配布したところ、「反国家的行為」として拘束された事例もある。そのような北朝鮮が、ローマ教皇を招聘することは考えにくいという見方もある。

 また、フランシスコ教皇が訪朝した場合、宗教活動の自由や、国内の人権問題を指摘される可能性もあり、北朝鮮としては、手放しにローマ教皇を歓迎できないと言える。

朝鮮半島情勢を巡るローマ教皇への期待

 一方で、北朝鮮が様々なリスクを承知の上で、ローマ教皇に招待状を送る可能性もある。

 今回、文在寅大統領がフランシスコ教皇に訪朝を要請した際、「教皇が訪朝してくれれば、朝鮮半島平和のモメンタム(勢い)になる」と伝えたが、いわゆる「バチカン外交」に対する期待は北朝鮮側にもあるだろう。

 バチカンは近年,キリスト教の諸宗派や他宗教との対話も積極的に行っており、キリスト教精神を基調とする正義に基づいた世界平和の確立を目指している。

 たとえば、1978年にローマ教皇に就任したヨハネ・パウロ2世は「空飛ぶ教皇」と呼ばれ、世界100か国以上を訪問して、世界平和と戦争反対を訴えた。

 現在のフランシスコ教皇も、米国とキューバの仲介役を担い、2015年の国交正常化に貢献した功績が知られている。

 このように、ローマ教皇は国家や宗教の垣根を越えて、近現代の国際政治において重要な役割を果たしてきた。

 韓国だけでなく、米国との対話に行き詰まる北朝鮮も、米朝国交正常化や朝鮮半島の終戦宣言を実現するため、ローマ教皇の仲介に期待を寄せることはありえる。

任期残り半年の文在寅政権

 文在寅大統領は、このような北朝鮮側の事情を踏まえ、フランシスコ教皇に訪朝および「仲介役」を要請したと考えられる。

 残り半年の大統領任期の中で、北朝鮮との対話を加速させたいという焦りもあるかもしれない。

 だが、仮に来年2月の北京オリンピックを契機に南北首脳会談を行うとしたら、ローマ教皇の訪朝はそれよりも前に実現させなければならない。

 鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は11月11日、「フランシスコ教皇の訪朝を検討するよう、北朝鮮に意見を伝えた」と明かしたが、そろそろ北朝鮮から反応がなければ、実現は厳しくなる。

 このまま訪朝計画が自然消滅するのか、その場合の文在寅大統領の次の戦略はどうなるのか、続報を待ちたい。

八島 有佑
@yashiima

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